産業資本(読み)さんぎょうしほん(英語表記)industrielles Kapital; industrial capital

  • industrielles Kapital ドイツ語
  • さんぎょうしほん サンゲフ‥
  • さんぎょうしほん〔サンゲフ〕
  • 産業資本 industrial capital

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

マルクス経済学の用語で,近代資本主義社会における支配的な資本形態とされる。通常歴史的には 18世紀後半から 19世紀初めにかけての産業革命を経て成立した綿工業主体とするイギリス産業資本がその典型とされる。この産業資本に歴史的に先行するものとして,商業資本高利貸資本が存在するが,これらは単に商品経済の存在のみを前提とし,安く買って高く売るという不等価交換ないしは,経済外的な強制による利潤収奪にその存立の基礎をおいていた。しかし産業資本はその存在自体が社会の再生産過程そのものの内部に基礎をおくものであり,その成立を可能にしたのは,生産手段と自己の労働力を商品としてしか売却しえない労働者との分離という社会関係の成立であった。したがって産業資本の確立は,同時に近代資本主義社会の確立を意味する。

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百科事典マイペディアの解説

工業,農業,運輸など生産部面に投じられている資本。流通部面の商業資本利子生み資本とは区別される。初め貨幣資本の形態をとり,次いでこれをもって生産手段と労働力とを購入して商品資本となり,次に利潤(剰余価値)を生み出す生産資本に転じ,さらにこれが利潤を含む商品資本(製品)に転化し,その販売によって増殖した貨幣資本に再転化する。産業資本だけが利潤を生み,資本と賃労働の関係を再生産する。歴史的にはこれに先立つ商人資本と高利貸資本も産業資本に従属するものとなり,産業資本の出現によって資本主義的生産は確立された。資本主義が独占段階に入ると,産業資本は銀行資本と融合し金融資本に転化する。
→関連項目資本資本主義政商前期的資本

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世界大百科事典 第2版の解説

商業資本,銀行資本とならんで資本主義経済システムを支える最も重要な資本の運動形式の一つである。商業資本や銀行資本が商品の流通や資金の社会的融通といった領域で活動するのに対して,産業資本はごく一般的には物的生産に直接たずさわる資本である。資本であるから当然〈投資→利潤を伴っての回収〉という根本契機を有している。具体的には生産設備,原材料,労働力など生産要素の購入(投資)→商品の生産→商品の販売という活動を示し,一般的には生産,販売をある期間繰り返すことによって投下資金を回収するとともに,販売収入のうち投下資金を超える部分を利潤として手に入れる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

資本とは一般的には自己増殖する価値であると定義することができるが、近代に独自な資本の形態であり、資本主義社会における資本の基本形態が産業資本である。産業資本の運動形態は

として定式化することができる。この範式においてG―W、 W'―G'は流通過程で行われ、点線は流通過程が中断されていることを示している。産業資本はまず貨幣形態Gで投下され、それによって生産手段Pmと労働力商品Aとが購入される。それらが合体されて商品の生産過程Pが進行し、その結果として剰余価値を含み価値の増殖した商品W'が生産される。それが市場で販売されることによって、最初投下した貨幣Gが回収されると同時に、剰余価値Δgが実現される。こうして資本価値の増殖が達成される。産業資本が成立するためには、(1)一定程度発展した商品生産および商品流通が必要であり、(2)それに加えて、人格的に自由で自分の労働力を自由に処分でき、かつ生産手段から引き離されて労働力以外に売るべき何物もないという二重の意味で自由な労働者が存在し、貨幣所持者たる資本家がこの労働者から労働力を購入することが可能でなければならない。したがって産業資本成立のためには、農民から土地を収奪し、彼らを無所有の労働者階級に転化する本源的蓄積過程が歴史的に先行しなければならない。産業資本が近代に独自な資本形態たるゆえんである。産業資本は貨幣形態にある資本価値=貨幣資本から、生産過程においてPmおよびAとして存在し、価値増殖の機能をもつ資本形態=生産資本へ、さらに剰余価値を含んだ商品=商品資本へと絶えず形態を転化させながら価値を増殖させている。だから産業資本は、剰余価値の収得のみならず同時にその創造が資本の機能であるような資本の唯一の定在様式である。資本の形態としては、歴史的に商業資本G―W―G'ならびに高利貸資本G…G'が産業資本に先行しているが、それらは産業資本成立とともに、それに従属し、産業資本の部分的機能を代行する従属的地位にたつことになる。

[二瓶 敏]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 産業に投資されて、直接産業上に機能している資本。特に、工業の生産過程においては貨幣資本で原材料、労働力などを購入し、商品を生産して剰余価値を獲得するもの。

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旺文社世界史事典 三訂版の解説

生産過程に投じられている資本
前期的商業資本や高利貸資本のような流通部門にとどまらず,賃金労働者を雇用し,生産手段を購入して,それにもとづき剰余 (じようよ) 価値を創造する。資本主義経済の原動力であり,やがて独占資本に発展する。

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旺文社日本史事典 三訂版の解説

資本主義社会において,生産過程に投入される資本
封建社会の末期に没落した農民手工業者を賃労働者として雇用し,労働させて彼らに剰余価値の生産を行わせることによって成立した資本であり,この資本の出現により資本主義的生産がはじめて開始された。日本では政府の保護育成策によってつくり出され,1890〜1900年代の産業革命を経て確立した。

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世界大百科事典内の産業資本の言及

【回転期間】より

…資本とは,増殖する価値の運動体であり,その姿を貨幣,商品等に転換しつつ一定期間に利潤を取得するものである。また,このような資本が生産過程を根拠に利潤を取得するようになったものが産業資本であり,したがって産業資本は,たえず貨幣資本(G),生産資本(P),剰余価値を含む商品資本(W′),剰余価値を含む貨幣資本(G′)と形を変えながら増殖運動をくりかえしている。ところで資本の回転期間とは,産業資本が前貸形態の資本すなわち生産資本ないし貨幣資本の形から出発し,再び同じ資本の形に復帰するまでの期間のことを意味している。…

【資本】より

…金貸資本はさらにいっそう間接的で,生産についての関係はまったく外的である。これらとちがって直接に生産を担当する産業資本によって新しい道が開かれるのである。
[産業資本]
 産業資本はGWPW′―G′の形式をもつ。…

※「産業資本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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