現実に運動している資本は,貨幣(事業開始,継続のための資金,種々の準備金,売上金等),生産資本(原材料,機械設備,労働力等),商品(生産物に代表される)の三つの姿をとっている。マルクス経済学ではこの貨幣形態にある資本を貨幣資本と呼び,それが生産資本や商品資本(生産資本と商品資本とをあわせて〈現実資本wirkliches Kapital〉と呼ぶ)に姿態を変え,再び貨幣の姿に戻るまでを貨幣資本の循環としてとらえ,資本主義的生産システム,とくに〈資本〉の運動の特質を明らかにしようとする。生産資本の循環が資本の固定性,生産の継続性を表し,商品資本の循環が全面的な商品生産社会を開示するのに対して,貨幣資本の循環は,商品売買の形式を通して市場に投下された資金が利潤をともなって回収されるまでを一循環としてとらえることによって,資本主義的生産が商品経済,貨幣経済の発達の中から生まれ,それらに包まれてのみ存在し,発展しうることを示している。さらに貨幣資本の循環は,循環の始点と終点との差額を資本の価値増殖分(利潤)とすることによって,〈資本〉が自己の運動の中にその根拠をもって自己増殖(利潤創出)する価値の運動体であることを示しているとされる。しかし貨幣資本というのは,あくまでも資本(の運動)の特質の一面を抽象的に明らかにするためのカテゴリーであり,そこでの〈利潤〉も抽象的な規定にすぎないものであるから,貨幣資本そのものが数量的にとらえられたり,現実の経済分析に役立てられたりしうるものではない。
→資本
執筆者:木村 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…資本とは,増殖する価値の運動体であり,その姿を貨幣,商品等に転換しつつ一定期間に利潤を取得するものである。また,このような資本が生産過程を根拠に利潤を取得するようになったものが産業資本であり,したがって産業資本は,たえず貨幣資本(G),生産資本(P),剰余価値を含む商品資本(W′),剰余価値を含む貨幣資本(G′)と形を変えながら増殖運動をくりかえしている。ところで資本の回転期間とは,産業資本が前貸形態の資本すなわち生産資本ないし貨幣資本の形から出発し,再び同じ資本の形に復帰するまでの期間のことを意味している。…
※「貨幣資本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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