日本大百科全書(ニッポニカ) 「国土安全保障省」の意味・わかりやすい解説
国土安全保障省
こくどあんぜんほしょうしょう
Department of Homeland Security
アメリカ国内でのテロ攻撃を予防し、テロに対するアメリカ国内の脆弱(ぜいじゃく)性を低減させ、攻撃が発生した場合には被害を局限して復旧を行うことを目的として創設されたアメリカの政府機関。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロを契機に、大統領G・W・ブッシュによって創設が提唱され、2002年11月に成立した国土安全保障法に基づいて、2003年1月24日に発足した。国土安全保障省創設の背景には、同時多発テロが、対外的な脅威から国土は安全であると信じてきたアメリカ国民に与えた大きな衝撃と大量破壊兵器がテロリストの手に渡る危険性の現実化がある。
同省は、連邦緊急事態管理庁Federal Emergency Management Agency(FEMA)、沿岸警備隊、税関、移民局など国土安全保障に関係する22の政府機関を統合することによって、約17万人の職員をもつ巨大官庁として発足し、国境・交通の安全、緊急事態への準備と対応、化学・生物・放射性・核兵器による攻撃への対処、情報分析・インフラストラクチャー防護の四つの部局から構成される。このような大規模な政府組織の改編は、冷戦の始まりへの対応として1947年に国防総省(ペンタゴン)が発足して以来のことである。
国土安全保障省では、同時多発テロ前に連邦捜査局(FBI)と中央情報局(CIA)の情報交換が円滑に行われていなかった反省から情報分析機能の強化が重視され、テロ関連の情報は、同省の情報分析部門がFBIやCIAから報告を受け、一元的に管理することになった。
しかし、テロ対策に関係する国防総省、司法省、運輸省、FBI、CIAなどの重要政府機関は残るので、政府機関どうしの調整が必要となることが予想され、そのために、同時多発テロ直後にホワイトハウスに設置された国土安全省局と国土安全保障会議が存続することになった。他方、出入国管理から治安維持まで広範で強大な権限が集中する巨大官庁の誕生には国民の警戒感も根強く、国土安全保障省にとって国土の安全確保だけでなく、権力の乱用をいかに防ぐかも重要な課題になる。
[近藤重克]