翻訳|customs
外国貿易に関し、国境通過に伴って生ずるすべての事務にあたらせるため、人・物・航空機などが自国の国境を出入りする要地に設けられる官庁。境界線を通過する貨物・船舶・航空機・車両および出入国旅客の携帯品などに対し、輸出入その他の許可および取締りを行い、関税その他の租税を賦課・徴収するとともに、これらに関するいっさいの事務を取り扱う官庁として、古くから国の貿易の振興に重要な機能を果たしてきた。カスタムスとは、特定地域を通過する貨物や通行の旅客に対して料金や税をかけるなど、古代都市国家の時代から自然発生的に行われてきた慣習的徴税customary dutiesを意味し、やがて関税や税関の語源となった。
[鳥谷剛三]
中世ヨーロッパにおいて、各都市が域内に出入りする貨物などに対し、税(関税)を徴収する機関を設置していたことに始まる。近世に入って、フランスでは1666年コルベールにより内国関税が低率に統一され、1834年ドイツ関税同盟が結ばれたことなどにより、関税は国際間の国家領域を単位とする国境関税に発展し、それを徴収するための機関(税関)が設置された。
日本では、鎖国政策下の江戸時代においては長崎の出島(でじま)だけが日本と外国を結ぶただ一つの港であったが、1858年(安政5)日米修好通商条約に基づき、長崎・神奈川・箱館(はこだて)・新潟・兵庫の各港が開港され、運上所が設置されて、貿易をはじめ外国事務をすべて取り扱うことになった。運上所は外国事務局(後の外務省)の統轄であったが、官制改革(1871)により、大蔵省に移管され、1872年税関と改称された。第二次世界大戦末期に一時閉鎖されたが、終戦後の1946年(昭和21)に再開され、貿易の進展、国際間の交流が激しくなるに伴い、機構、所掌事務が拡大している。2001年(平成13)1月の中央省庁再編では、大蔵省は財務省、内閣府外局の金融庁などにその機能を分割され、関税局は財務省に所属することになった。
[鳥谷剛三]
財務省関税局の直轄官庁として、東京・横浜・神戸・大阪・名古屋・門司(もじ)・長崎・函館(はこだて)・沖縄地区の9税関があり、その下に多くの税関支署、税関出張所、税関支署出張所および監視署が設けられている。その行う事務(所掌事務)は次のとおり。
(1)関税・とん税(外国貿易船が入港の際に課せられる)、特別とん税(とん税と同時に課せられ、開港場所在の市町村に譲与)、および輸入品に対する内国消費税の賦課徴収、(2)関税関係法規による輸出入貨物、船舶、航空機および出入国旅客の携帯品などの取締り、(3)保税地域に関する業務、(4)外国為替(かわせ)及び外国貿易法、輸出入取引法による輸出入貨物の取締り、(5)通関業の許可および監督、(6)貿易統計の作成などである。
[鳥谷剛三]
(1)入出港手続 外国貿易船(機)が開港(空港)に入港した際、船(機)長は入港届、積荷目録などを税関に提出する。外国貿易船は、純とん数に応じ、とん税および特別とん税を納付する。出港の際には出港届を税関に提出し許可を受ける。
(2)出入国旅客の携帯品などの通関手続 旅客は出入国の際に携帯品などについて口頭で税関(監視部旅具課)に申告し、必要な検査を受けて通関する。ただし船舶で入国する場合、航空機で帰国する場合、免税基準を超える携帯品がある場合および別送品がある場合、申告書を提出する。携帯品が免税基準を超えるときは、納税して通関することになる。
(3)輸出貨物の通関手続 輸出(業)者は、輸出しようとする貨物を保税地域に搬入後、輸出申告書に関係書類をつけて税関に提出する。税関が適正と認めれば輸出が許可される。
(4)輸入貨物の通関手続 輸入(業)者は、輸入しようとする貨物を本船から保税地域に搬入後、輸入(納税)申告書に関係書類をつけて税関に提出する。税関が適正と認めると輸入者に納税適格である旨通知し、輸入者は納付した領収書を税関(輸入部収納課)に呈示して輸入の許可を受けて、輸入ができることになる。
(5)郵便物の輸出入通関手続 郵便物を輸出する場合、輸出する者は郵便物を郵政官署に差し出すだけでよいが、その後、郵政官署内に置かれている税関(外郵出張所)で検査が行われるから、税関符票(税関告知書)に内容・金額など所定事項を記入して郵便物に添付しなければならない。郵便物を輸入する場合、関税などが課せられるものについては、税関で課税額を算出のうえ、郵政官署から名宛(なあて)人に対して国際郵便物課税通知書が送付されるから、それに税額相当の収入印紙を貼付(ちょうふ)して郵政官署に提出して郵便物を受け取る。
以上、税関業務は、税務行政として、輸入品にかかる関税・内国消費税、外国貿易にかかわる船舶のとん税・特別とん税の賦課徴収を行い、通関行政として、貨物の輸出入手続の審査を行い、監視行政として、違法な輸出入を監視し違法行為の調査を行う。さらに保税行政として、貿易振興、輸出入手続の便宜を図るための保税倉庫、保税工場などの許可・監督を行っている。税関は現在、世界貿易額の約10%を占める日本の貿易を支える行政機関として、重要な役割を担っている。
[鳥谷剛三]
関税の徴収をはじめ,通関手続,監視,保税等の業務を担当する行政機関。大蔵省本省の関税局が関税法や関税制度等の企画・立案を担当するのに対して税関は大蔵省の地方出先機関(現在は財務省の地方支分部局)として東京,横浜,神戸,大阪,名古屋,門司,長崎,函館,那覇の9ヵ所に置かれ,全国を9地域に分けて管轄し,関税徴収等の実務を取り扱っている。
日本において常時外国貿易のために開かれている港を開港(空港の場合は税関空港)と呼んでおり,関税法では,現在,京浜港,神戸港,大阪港,名古屋港など120海港が開港として指定され,成田国際空港など27の空港が税関空港として指定されている。これらの港に対応して,全国9税関(沖縄のみ地区税関の名称を持つ)の下に支署が68,支署出張所が82,出張所が35,支署監視署が8,監視署が1配置され,本関,支署,出張所等を通ずる定員は8620人となっている(2008)。
その業務は大別して次の4種類である。第1は税務行政であり,輸入品にかかる関税と内国消費税の賦課徴収,外国貿易に従事する船舶の純トン数に応ずるとん税,特別とん税(地方公共団体への譲与税の一つ)の徴収などである。第2は通関行政であり,貨物の輸出入手続が適法であるかどうか審査を行う。第3は監視行政であり,違法な輸出入が行われないよう貨物の積卸しや出入りの監視,違法行為の調査を行う。第4は保税行政である。輸入品に関税をかけないでおくことを保税というが,貿易の振興や輸出入手続の便宜を図るために保税倉庫や保税工場などの保税地域を許可したり,その監督を行う(保税制度)。
日本の関税は輸入品の価格の調整を通じて国内産業の保護を行うという,いわゆる保護関税の性格を有するが,財政面でも1997年度においては,1兆0930億円の関税収入が見込まれ,租税収入の税目別構成では所得税,法人税,消費税,相続税,酒税,印紙税,揮発油税についで第8位となっている。関税に関する基本的な法制としては,関税の賦課・徴収および輸出入貨物の通関に関する制度・手続等を定めた関税法,課税価格の決定の方法および課税物件ごとの具体的な適用税率を定めた関税定率法および関税暫定措置法がある。
税関の歴史を見ると,鎖国政策下の江戸時代においては長崎の出島が日本と外国を結ぶただ一つの港であったが,嘉永7年(1854)の日米和親条約を皮切りに,安政5年(1858)の安政五ヵ国条約等により,箱館(のち函館),長崎,横浜などが相ついで貿易港として開港され,関税事務,外務事務を取り扱う〈運上所〉が設けられた。これが税関の前身である。1872年11月運上所は税関と改められ,日本の貿易の進展とともに税関の体制も逐次整備され,いまや世界貿易額の約1割を占め,輸出入総額で70兆円を超える貿易を支える重要な制度上の役割を果たしている。
→関税
執筆者:八木 俊道
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