運輸省設置法によって設置された国の行政機関。1920年(大正9)設置の鉄道省が、1943年(昭和18)運輸通信省に改組され、さらに1945年5月に運輸省として独立した。2001年(平成13)1月には中央省庁再編により、建設省、国土庁、北海道開発庁とともに、国土交通省に統合された。
運輸省の所掌事務は、若干の変遷があったが、水・陸・海・空における人や物の移動を意味する交通・運輸に直接間接にかかわる行政(海運、陸運、航空、港湾、船員、船舶、鉄道、自動車および観光などの行政)から、外局である気象庁によって行われる気象業務や、海上保安庁によって行われる海上の安全および治安の維持に至るまで、多岐にわたっており、それに伴って大規模な行政組織になっていた。すなわち、内部部局として大臣官房と運輸政策局・鉄道局・自動車交通局・海上交通局・海上技術安全局・港湾局・航空局の七つの局、および各地方の地方運輸局・港湾建設局・地方航空局・航空交通管制部などの地方支分部局、運輸審議会に代表される審議会等、船舶技術研究所・港湾技術研究所・航空大学校・運輸研修所などといった施設等機関、気象庁・船員労働委員会・海上保安庁・海難審判所の四つの外局から構成されていた。これらのうち、もっとも重要なものは運輸行政であった。運輸行政は、国民生活や産業活動に必要不可欠な交通・運輸の公共性にかんがみ、その手段や方法および配置など全般にわたって、安全性、確実性、利便性などの観点から総合的な規制や監督および調整や指導を行うところに意義があった。もっとも、高度成長期以降の運輸行政は、安全性・確実性よりも利便性、国民生活よりも産業活動の利便性を重視する傾向にあり、旧国鉄の長期債務をめぐる諸問題、公共交通輸送手段のあり方と運賃問題、自動車事故対策、騒音・大気汚染対策などの公害問題でその意義が問われていた。
2001年以降、同省の組織は次のように再編された。内部部局に関しては、大臣官房の有する機能が、新省庁の国土交通省の大臣官房および政策統括官に、運輸政策局については、国土交通省の大臣官房、総合政策局および政策統括官に、海上交通局および海上技術安全局は国土交通省の海事局に、鉄道局・自動車交通局・港湾局・航空局は、国土交通省の鉄道局・自動車交通局・港湾局・航空局に引き継がれることとなった。施設等機関に関しては、港湾技術研究所(現、海上・港湾・航空技術研究所)・航空大学校等はそのまま国土交通省の施設等機関としてそれぞれ引き継がれたが、2001年4月にそれらの大部分は独立行政法人化された。運輸研修所については、建設省の建設大学校と統合され、国土交通省の施設等機関である国土交通大学校および国土交通政策研究所として再編された。審議会等に関しては、運輸審議会は、国土交通省運輸審議会にそのまま引き継がれたが、運輸政策審議会・運輸技術審議会などは、国土交通省の交通政策審議会に引き継がれることとなった。四つの外局は、国土交通省の外局としてそれぞれ引き継がれた。地方支分部局に関しては、港湾建設局は建設省の地方建設局とともに、国土交通省の地方整備局に再編され、地方運輸局・地方航空局・航空交通管制部は、国土交通省の地方支分部局である地方運輸局・地方航空局・航空交通管制部として引き継がれることになった。
[福家俊朗・山田健吾]
陸・海・空にわたる交通・運輸行政を総合的に所管した旧行政機関。旅客や貨物の輸送需要に対応して,安全・迅速・正確・低廉な輸送サービスの提供確保のための行政に責任を負うと同時に,気象行政,観光行政,船員労働行政,造船行政等に至るまできわめて広い守備範囲をもっている。その前身は,旧逓信省(1885設置)および旧鉄道省(1920設置)を統合して1943年に設置された運輸通信省であるが,現在に至る運輸省の体制は,49年6月1日に国鉄の公社化(のち1987年に分割・民営化)に伴い基本的に整えられたものである。組織は大臣官房および七つの局,外局4機関からなる。局には,陸・海・空の総合的な運輸政策および計画の策定・推進,運輸関係の国際関係業務,観光行政を担当する運輸政策局,幹線鉄道,都市鉄道,鉄道保安等を担当する鉄道局,バス,ハイヤー,タクシー,トラック等の自動車運送および自動車保安等を担当する自動車交通局,内航海運,外航海運等を担当する海上交通局,船舶行政および船員行政を担当する海上技術安全局,港湾の建設・管理に当たる港湾局,航空行政一般および飛行場の建設と管理・航空保安等を担当する航空局がある。
外局としては,海上保安庁,気象庁,船員労働委員会,海難審判庁が置かれている。地方出先機関としては,地方運輸局,港湾建設局,地方航空局,管区海上保安本部および海上保安部,管区気象台および地方気象台等多くの機関があり,そのほか多くの付属機関や審議会等が置かれている。2001年の省庁再編により建設省,北海道開発庁,国土庁と統合されて国土交通省に改編された。
執筆者:八木 俊道
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運輸交通行政を所管する中央官庁。1945年(昭和20)5月19日,組織の膨大さのため円滑性を欠いた運輸通信省から通信部門を逓信院として内閣に移管して設置。官房・鉄道総局・海運総局・企画局・自動車局・港湾局・航空局から構成された。第2次大戦後の48年,国家行政組織法の公布により設置法の立案が図られたが,国有鉄道の扱いをめぐって紛糾,GHQの指示で公共企業体として分離し,49年6月1日発足。大臣官房・海運局・船舶局・船員局・港湾局・鉄道監督局・自動車局の内局と,海上保安庁・船員労働委員会・海難審判庁の外局で再構成。のち民間航空再開にともない航空局が,また外局に気象庁が加わった。84年内局は機能別に改編された。許認可権の多い官庁である。2001年(平成13)1月,中央省庁再編により建設省・北海道開発庁・国土庁と統合して国土交通省となる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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