日本大百科全書(ニッポニカ) 「ATC装置」の意味・わかりやすい解説
ATC装置
えーてぃーしーそうち
自動列車制御装置automatic train control deviceの略称。列車の衝突事故を防止するための列車保安装置の一種。先行する列車との間隔および進路の諸条件に応じて、車内に列車の許容速度を示す信号を連続的に表示し、その信号表示に従って列車の速度を自動的に制御する。
[土田 廣]
装置と機能
システムは地上装置と車上装置とによって構成されており、列車の有無の検知、列車への信号伝送、受信信号の表示、信号の指示する速度と列車の速度との比較、ブレーキの自動制御という五つの機能をもっている。列車の検知と信号の伝送には軌道回路(レールを利用した電気回路)を使用し、連続して情報が伝送できるという優位性から、信頼性の高いものとすることができる。
列車衝突事故の防止は、鉄道が抱えたもっとも重要な課題である。その対策としては、通常、先行する列車と続行する列車との間に常時保安距離を保つこととし、先行列車がある定められた区間を通過しなければ、続行列車をその区間に進入させないという方法をとっている。つまり「一区間一列車」の原則である。このように、ある区間を一列車の運転に専有させることを閉塞(へいそく)といい、この区間を閉塞区間という。閉塞区間の始端には信号機を設備し、その区間に列車があるときは、これに停止信号を示すから、続行列車はその手前で停止し、したがって衝突事故は防げるわけである。
ATCを設備した区間では、従来の地上信号機にかわって、信号は車内に表示されるが、この信号は直接列車の許容運転速度を示す数字となって示される。さらに示された数字と実際の列車の運転速度とを対比しやすいように、信号表示は速度計に組み込まれている。
[土田 廣]
ATC装置の実用化
国鉄(現、JR)がATC装置を実用化したのは1964年(昭和39)10月開業の東海道新幹線が最初である。ATCシステムの研究そのものは昭和10年代の東海道・山陽本線における「弾丸列車構想」のなかで着手され、そこから生まれたATS装置(自動列車停止装置、当時はまだ車内警報装置の段階であった)の技術が継承されてATC装置となり、それが最高時速210キロメートルという高速運転の新幹線に列車保安方式として採用されたのである。一方、在来線では、1966年にATS装置を全線にわたって使用開始したが、これは運転士が行う列車の停止制御をカバーする補助的機能しかもたないところから、大都市通勤電車区間において、ATS装置よりさらに保安度の高いATC装置の必要性が高まってきた。
その結果、営団地下鉄(現、東京地下鉄)千代田線と国鉄(現、JR東日本)常磐(じょうばん)線の相互直通運転の開始に際して、1971年4月、綾瀬(あやせ)―我孫子(あびこ)間でATC装置による運転が開始された。その後、総武・横須賀線の地下構造式となった区間(錦糸町(きんしちょう)―東京―品川間)および山手線、京浜東北線などでもATC化が進められてきた。私鉄においてもATC装置は積極的に使用されているが、私鉄の場合は地上信号機を併用している線区もあり、ATS装置とATC装置の相違、区分について、一様に論ずることはむずかしい。
一般的には、ATS装置は補助システムとして停止制御だけを行うもので、ATC装置は停止制御のほか列車相互の間隔制御(減速制御)を自動的に行うものであり、列車保安方式を確立するうえでの基本設備ということができる。また、ATC装置は列車運転に必要なその他の機能(たとえば加速、定位置停止、運転時間調整などの制御機能)を加えることによって、ATO装置(列車自動運転装置)へつなげることができる。
[土田 廣]