日本大百科全書(ニッポニカ) 「ATS装置」の意味・わかりやすい解説
ATS装置
えーてぃーえすそうち
自動列車停止装置automatic train stop deviceの略称。列車の衝突事故を防止するために設けられる列車保安装置の一種。列車の進行中、信号機が停止信号を示しているのにもかかわらず、運転士が列車を停止させなかったような場合に、信号を自動的に読み取って非常ブレーキを作用させ、列車を停止させる装置である。
[土田 廣]
導入の歴史
ATS装置は、1934年(昭和9)東京地下鉄道の新橋―浅草間に打子(うちこ)式とよばれる装置を設備したのが実用化の第一号である。国鉄(現JR)では21年(大正10)ごろから研究に着手した。列車衝突事故のたびにその必要性が叫ばれるなかで、各種の実験、研究が繰り返されたが、実用化には至らなかった。太平洋戦争開戦直前の41年(昭和16)9月、山陽本線網干(あぼし)駅構内で列車追突事故が発生したのがきっかけとなり、ATSの必要性が叫ばれ、戦争遂行に不可欠な輸送の安全確保という大義名分のもとに、東海道本線と山陽本線にATSが取り付けられることになった。しかし、その取り付け工事が完成する前に終戦となり、戦後の資材不足と連合軍の民間運輸局の不承認によって、47年12月、工事は中止された。
その後、1954年ごろから、国鉄の主要線区では車内警報装置が使用され始めた。車内警報装置は、列車が停止信号を示した信号機の手前の一定地点に近づくと、運転士に対して自動的に警報を発する装置である。62年5月3日、常磐(じょうばん)線三河島(みかわしま)駅で列車衝突事故が発生、大惨事に至ったが、これを契機に国鉄では、従来の車内警報装置に列車を停止させる機能をもたせたATS装置の設置を決め、3年の工期と160億円の工費をかけ、66年4月、全線区にわたって使用を開始した。私鉄においても、66年には名古屋鉄道、京阪電鉄、近畿日本鉄道などで列車事故が相次ぎ、事故防止対策としてATS装置の導入が促進された。
[土田 廣]
種類
JRおよび私鉄各社は、技術の上でもそれぞれに長い歴史と伝統をもっており、異なった運転取扱いが定められているから、当然、ATS装置の方式もその設備条件も異なっている。ATS装置によって列車の停止制御を行うためには、まず信号機が示している条件を地上から車上に伝達してやらなければならない。この情報伝達の方法によってATS装置は、点制御式(S形)と連続制御式(P形)とに分けられている。点制御式は一般に使用されている方式で、信号機の手前(列車を停止させるに必要なブレーキ距離を隔てた地点)に設備された装置によって、地上から車上へ情報伝達を行う。連続制御式は、レールを電気回路として地上から車上へ連続して情報を伝達する。この場合、レールに流す電流の周波数の与え方によっては、多段階の速度制御システム(たとえばATC装置など)への発展も可能で、情報伝達が連続して行えるところから、フェイルセーフのシステムとして信頼性のより高いシステムも期待できる。
[土田 廣]