日本大百科全書(ニッポニカ) 「公営交通」の意味・わかりやすい解説
公営交通
こうえいこうつう
地方公共団体の経営する交通事業。その営業分野は路面電車、バス、地下鉄、ニュータウン鉄道、モノレール、架空索道(ロープウェー)、簡易軌道、船舶運送業などにわたっており、2016年度(平成28)時点で、全国70の地方公共団体で86事業を経営し、年間およそ43億人を運んでいる。
一般に都市が交通事業を営むのは、1880年代に路面電車(市街電車)が登場するようになってからのことで、都市経済や市民生活の円滑な発展に、都市公共空間を占用する近代的交通機関の整備が必要となり、都市の中枢機能の一つとして交通機関が公共的意義と役割をもつようになったからである。日本の公営交通は1903年(明治36)にまず大阪で路面電車が市により経営され、その後民営電車が買収されて、東京(1911)、京都(1912)、神戸(1917)、横浜(1921)、名古屋(1922)などの市電となった。市営バスは、関東大震災(1923)で崩壊した市電網の代役として東京で開業したのが最初である。昭和初期の恐慌で経営難に陥った民営交通を買収するなどして地方中都市にまで市営バスが拡大、戦間期にも民業の市営化が続いた。第二次世界大戦後は過密化する大都市の通勤・通学輸送対策への必要と、自動車に押されて衰退する路面電車に代替するため、公営バス、地下鉄の拡充、新設が進められた。公営地下鉄は1933年(昭和8)に開業した大阪市営地下鉄(現、大阪市高速電気軌道)の梅田―心斎橋(しんさいばし)間が最初である。戦後に名古屋(1957)、神戸(1968年民営の神戸高速鉄道開業。市営は1977年開業)、札幌(1971)、横浜(1972)、京都(1981)、福岡(1981)、仙台(1987)で開業したほか、東京では既存の営団地下鉄(1941。2004年に民営化され、東京地下鉄となる)と並んで都営地下鉄が発足(1960)した。
公営交通は、能率的な経営のもとに、地域社会の必要とする輸送サービスを「よく、安く、平等に」提供し、公共の福祉を増進することを基本目的とすると同時に、独立の企業として採算性の確保が求められている。しかし、路面混雑による速度低下と乗客減少に悩むバス事業や、巨額の建設費負担にあえぐ地下鉄事業など、ほとんどの公営交通が収支償わず、年々損失を累積してきている。料金の改定は利用者負担への影響がつねに問題とされ、公共性原則と整合した形での企業採算性確保が重要な課題である。1966年(昭和41)の地方公営企業法(昭和27年法律第292号)改正により、企業会計で負担すべき経費が限定、区分されて、財政再建計画のもとに公的補助を受けて経営の健全化が図られるようになったが、都市交通と一体の都市改造や、都市交通の一元的運営体制の確立など、構造的対策の進展がさらに望まれている。
[辻 和夫]
『自治省編『地方公営企業年鑑』各年版(地方財務協会)』▽『運輸省編『大都市交通センサス総集編』各年版(運輸政策研究機構)』▽『運輸省運輸政策局監修『地域交通年報』各年版(運輸政策研究機構)』▽『中西健一・廣岡治哉編『日本の交通問題』3版(1980・ミネルヴァ書房)』▽『大坂健著『地方公営企業の独立採算制』(1992・昭和堂)』▽『松尾光芳・小池郁雄・中村実男・青木真美著『交通と福祉』(1996・文真堂)』▽『廣岡治哉編『都市と交通』(1998・成山堂書店)』