基礎吸収(読み)キソキュウシュウ

化学辞典 第2版 「基礎吸収」の解説

基礎吸収
キソキュウシュウ
fundamental absorption

半導体イオン結晶は,光に対して透明な領域をはさんで長波長側(赤外域)と短波長側に結晶固有の吸収を示す.赤外吸収は格子振動によるものであるが,短波長側の吸収はX線領域にまで及ぶ連続スペクトルで,結晶構成原子のエネルギー準位にもとづく充満帯から,電子によって占められていない伝導帯への電子遷移によって起こるもので,これを基礎吸収という.運動量空間で同じ波数ベクトルをもった状態間の遷移は直接遷移で,吸収係数は 105 cm-1 程度の大きさをもつ.基礎吸収の主要部分は,この遷移による.異なる波数ベクトルの状態間の遷移も,運動量保存則を満たすように結晶フォノンの吸収または放出を伴えば可能になる.この間接遷移の吸収係数は小さいが,温度上昇とともに確率は増大し,フォノンの吸収の場合,吸収端にフォノン構造が現れる.吸収端近くには遷移によって生じた充満帯の正孔と伝導帯の電子とが,クーロン力で束縛された状態に対応する励起子帯がある.誘電率の大きな結晶では,励起子帯は吸収端に向かって収れんする水素原子的な系列帯を示す.代表的な例がCu2O,CdSなどの結晶に見られる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「基礎吸収」の意味・わかりやすい解説

基礎吸収
きそきゅうしゅう
intrinsic absorption

絶縁体や半導体は,一般に波長の長い赤外線や可視光線に対しては透明であるが,短電磁波に対しては急激に吸収が強くなり不透明になる。このきわめて大きな吸収係数を示す波長域の吸収を基礎吸収または固有吸収という。基礎吸収は電子が光を吸収して充満帯から伝導帯に移ることに対応し,光吸収急増とともに光伝導度も増す。

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