日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォノン」の意味・わかりやすい解説
フォノン
ふぉのん
phonon
固体における原子(イオン)振動の量子化によって生じるエネルギー量子をいう。音響量子、音子ともいう。固体の原子は規則的な配列をしているが、それぞれの位置に静止しているのではなく、その周りで絶えず振動している。振動は原子から原子へと次々に伝わり、一種の波として固体内を伝播(でんぱ)する。固体原子が行うこのような運動を格子振動という。格子振動の振動数νは、縦波、横波の別や、波長に依存していろいろな値をとる。量子力学によると、振動は量子化され、振動のエネルギーは
(n+1/2)hν
(hはプランク定数、nは振動の量子数で、0または正の整数)というとびとびの値しかとりえない。基底状態(n=0)のエネルギー(1/2)hνを別にすれば、エネルギーはhνの整数倍になるから、量子数nの振動状態はエネルギーhνの「粒子」がn個存在するものとして理解できる。この「粒子」をフォノンという。これは、光の量子化により生じる粒子、フォトン(光子)と似た存在である。固体を伝わる音波の粒子という意味で、音を表す接頭語フォン(phon)からこのように名づけられた。
フォノンは固体の性質にいろいろな役割を果たす。絶縁体においては、低温の比熱はフォノンの励起として説明され、熱伝導はフォノンの流れとして理解できる。金属では、フォノンは伝導電子と強く相互作用しており、電子の運動を妨げて、電気抵抗の原因になる。また、電子間にはフォノンの媒介によって引力が働く。鉛や水銀などの金属が低温で超伝導になる原因はこの力にある。
[長岡洋介]