多胚(読み)タハイ(その他表記)polyembryony

デジタル大辞泉 「多胚」の意味・読み・例文・類語

た‐はい【多×胚】

1個の受精卵が分裂して2個以上のが生じること。多胚形成多胚現象

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改訂新版 世界大百科事典 「多胚」の意味・わかりやすい解説

多胚 (たはい)
polyembryony

一つの受精卵から2個以上の胚が生ずる現象をいう。ヒト一卵性双生児も多胚現象の一つである。ヒトの多胚は,なんらかの偶発的な原因で,2細胞期の割球が透明帯から脱出して分離し,おのおのが独立に発生を開始したものと考えられている。ヒツジラットでも,2細胞期の割球が全能性をもち,人為的に割球を分離しても,それぞれが完全な個体に発生可能なことが実験的に証明されている。ウサギマウスでは少なくとも8細胞期まで,割球は全能性を有していることを示唆する実験結果がある。多胚によって生じた動物は,遺伝子構成が互いにまったく同じであることが期待されるので,人為的に作出された多胚から得られた動物は遺伝や発癌薬剤の作用機構などの研究にきわめて有用であることが予想される。しかし,現在のところ,実験的にそのような動物を多数作出することは困難で,十分応用されるには至っていない。

 自然の生殖過程で,多胚を起こす動物もある。アルマジロの仲間では一卵性の四つ子を産む種Dasypus novemcinctusや,一卵性八つ子(場合によっては一卵性十二子)を産む種Dasypus hybridusがあることが知られている。

 ヒトで多胚の起こる理由は不明である。メダカグッピーのような魚類では,ときおり偶発的な多胚が観察され,胚発生途上の酸素分圧が多胚形成に関係していることを示す実験結果も報告されているが,ヒトを含む哺乳類のそれと直接関連づけることは難しい。
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百科事典マイペディア 「多胚」の意味・わかりやすい解説

多胚【たはい】

1個の受精卵が分裂して2個以上の胚が発生する現象。通常は何らかの偶発的な原因によって2〜4細胞期の受精卵の割球が分離してそれぞれ独立に胚発生を遂げたもの。ヒトの一卵性双生児もこれにあたる。しかし,アルマジロでは正常な現象で,常に4ないし8の同性の子が生まれる。昆虫のうち寄生性のある種のハチでは1個の受精卵から数百という個体を生じる。

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