女らしさの神話(読み)おんならしさのしんわ(英語表記)The Feminine Mystique

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「女らしさの神話」の意味・わかりやすい解説

女らしさの神話
おんならしさのしんわ
The Feminine Mystique

1963年に出版されたフェミニズム運動の指導者ベティ・フリーダン著書邦題『新しい女性の創造』。第2次世界大戦後のアメリカ合衆国の女性たちがいだいていた不満に焦点を当て,女性学と女性解放運動(→ウーマン・リブ)にとっての金字塔となった。フリーダンは,女性は家事や結婚,受動的な性,育児といったものだけで満足を得られるという社会通念を「女らしさの神話」と名づけた。さらに当時は,高等教育職業,政治的発言力などを求めず,家庭のなかで完全に満ち足りた生活を送るのが「真に女らしい」女性だとする考え方が大勢を占めていた。これに対しフリーダンは,多くの女性はそうした生活に満足していないが,自分の感情をはっきりと言えないのだと指摘し,女性たちのいだく不満や,女らしさの神話に従って生きることの困難さを「名前のない問題」と呼んだ。フリーダンは統計や女性たちへのインタビューを通して,努力して女らしさの神話を成し遂げようとする女性の願望について検証した。実際に女性の声を聞いてみると,彼女たちは雑誌家政学教科書で勧められているようなふるまい――夫が仕事から帰宅するのを待って夕食を用意する,夫の靴を脱がせ,飲み物を出してくつろがせるなど――に必ずしも満足しているわけではないことが明らかになった。ほとんどの女性は,そうした理想化された女性像に従って生きることに困難を感じていたのである。フリーダンは女らしさの神話を否定し,女性は新しい「生活設計」を立てるべきだと提言した。家事は「職業(キャリア)」とみなされるのではなく,できるだけ短時間ですませるべきものであり,女性は家庭だけでなく,社会で充実したキャリアをもつことができると主張した。教育の目的は女らしさの神話を強化するのではなく,女性を解放することにあるというフリーダンの考えは,1960~80年代の第2期フェミニズムの数ある契機の一つとなった。

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