好酸球増加症候群

内科学 第10版 「好酸球増加症候群」の解説

好酸球増加症候群(好酸球増加症・好酸球増加症候群)

定義・概念
 好酸球増加症候群とは,狭義では原因不明(特発性)で末梢血の好酸球数が1500/μLをこえる増加が6カ月以上持続し,好酸球による心臓,肺,皮膚,中枢神経などの臓器傷害を認める疾患群である.
分類
 HESは定義からいって特発性であるが,いくつかのvariantが知られており,その中で骨髄増殖性(myeloproliferative)とリンパ球性(lymphocytic)が最も一般的なvariantである.
原因・病因
 多くのHES患者では好酸球数の恒常的な上昇の原因は不明であるが,一部の症例ではFIP1L1遺伝子と血小板由来増殖因子受容体α(platelet derived growth factor receptor:PDGFRα)の細胞内領域の融合が原因と考えられる.このFIP1L1/PDGFRα融合遺伝子がチロシンキナーゼ下流シグナルの恒常的な活性化を引き起こし,好酸球の成長促進と寿命延長から恒常的な好酸球数の上昇をもたらす.また,異常T細胞からのIL-5過剰分泌が好酸球増加の原因となる場合もある.
疫学
 発症年齢は20~50歳(平均発症年齢33歳)で,男女比は9:1と男性に多い.
病理
 各臓器へ浸潤した好酸球から放出されるeosinophilic major proteinやmajor basic proteinといった毒性蛋白による臓器傷害が認められる.
 心臓では血栓症,心内膜炎(Löffler心内膜炎),心筋の線維化と瘢痕化,僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症,心膜炎などが発現する. 肺では好酸球性肺炎像や肺の線維化像を示す. 皮膚所見では,好酸球浸潤を伴った丘疹,小動脈血栓による皮膚潰瘍などを認める. 脳では血管炎,血栓による梗塞像,末梢神経では脱髄や軸索消失といった神経炎所見を呈する.
病態生理
 好酸球の分化,増殖,遊走,生存延長の関与するサイトカイン,ケモカインであるインターロイキン-5(IL-5)や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macropharge colony-stimulating factor:GM-CSF)の産生亢進によって好酸球が組織に浸潤し,好酸球由来の毒性顆粒やラジカルガスが組織傷害を起こす.
臨床症状
 弁膜症による心不全や息切れ,皮膚潰瘍,脳動脈血栓症による神経症状,皮疹など,臨床症状は傷害された臓器によって多彩(病理の項参照)である.無症状で,他疾患の経過観察中の血液検査で見つかる場合もあるので注意が必要である.
 全身倦怠感,発熱微熱),体重減少などの全身症状も出現することもある.
検査成績・診断
 まず,末梢血での持続した好酸球数の増加(1500/μL以上)と臓器障害があれば本疾患を疑う.
 次に,好酸球増加をきたしうる寄生虫感染をはじめとした疾患を除外する.慢性好酸球性白血病に関しても骨髄検査で除外する.骨髄細胞でFIP1L1/PDGFRα遺伝子の細胞内領域の融合の有無を検知できる.胸・腹部CTは悪性腫瘍の存在の否定に有用である.
 血漿中のビタミンB12やマスト細胞由来のトリプテースがHESでしばしば上昇する.HESのmyeloprolife­rative variantでビタミンB12上昇を伴うことが多い. T細胞の表面形質検索は異常T細胞の検出に役立つ.IgE値や総免疫グロブリン値が上昇する場合もある(lymphocytic variantで多い).
 なお,HES患者のルーチン検査として胸部単純写真や心電図は心肺病変の存在の有無の判断上必須である.
鑑別診断
 前項(好酸球増加症)であげた好酸球を増加する原因疾患との鑑別が必要である.特に,悪性腫瘍,白血病の鑑別は臨床上重要である.
経過・予後
 傷害される臓器,治療への反応性によって異なるが,心病変の程度が大きく予後に関与する.
治療
 FIP1L1/PDGFRα融合遺伝子陰性HESでは好酸球減少と臓器障害抑制を目的として全身性ステロイド投与を行う(高用量から漸減).FIP1L1/PDGFRα融合遺伝子が認められるHES患者では,BCR-ABLチロシンキナーゼ特異的阻害剤,イマチニブが有効性を示す.[一ノ瀬正和]
■文献
DeBrosse CW, Rothenberg ME: Eosinophilia: clinical manifestations and therapeutic options. In: Allergy, 4th edition (Holgate ST et al ed), pp361-368, Elsevier Saunders, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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