孟子字義疏証(読み)もうしじぎそしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「孟子字義疏証」の意味・わかりやすい解説

孟子字義疏証
もうしじぎそしょう

中国、清(しん)の戴震(たいしん)の著。全三巻。巻上理、巻中天道・性、巻下才・道・仁義礼智(じんぎれいち)・誠・権。『孟子』にみえるそれらの語の字義を疏通証明する、の意を書名とする。戴震は、道を求めること、つまり古聖賢(古典筆者)の心をとらえることを、経学(けいがく)の最高の段階に置き、字義の究明から古代言語に通じて「経(けい)」を解明し、そこに道を見いだす、という考証学の方法論を説き、この著を彼の多くの著述のなかでももっとも重要なもの、と自らいう。これが定稿となったのは晩年で(1776)、前に『原善』『緒言(しょげん)』『孟子私淑録』があり、聖人の道に至る緒(いとぐち)として孟子に私淑するものである。孟子は楊墨(ようぼく)の説を排したが、宋儒(そうじゅ)は老荘釈氏の説を受け入れたため、いまや政治から日常生活に及ぶまで、天下が禍(わざわい)を被っている、と朱子学ないし政治権力者を批判し、人間の欲望を肯定する彼自身の哲学を、理気に関する独自の理論体系に組み立てて展開している。

[近藤光男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「孟子字義疏証」の意味・わかりやすい解説

孟子字義疏証
もうしじぎそしょう
Meng-zi-zi-yi-shu-zheng

中国,清の学者戴震の晩年の著書。3巻。乾隆 41 (1776) 年成立。『孟子』の文章を中心にし,考証学の知識を駆使して,理,天道,仁義などの儒教の主要概念について解説している。清代考証学者の間にあっては,珍しく思弁的な書であることと,その解説が合理的で近代的傾向を示していることで学者の注目を集めている。

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世界大百科事典(旧版)内の孟子字義疏証の言及

【考証学】より

…呉派が漢儒の学説を墨守し復古を主張したのに対し,皖派は必ずしもそれに拘泥することなく,創造的な研究を推し進めた。戴震の《孟子字義疏証》は考証学の方法を用いながらも,その枠を越え,みずからの新しい哲学を提出するに至ったものである。 清朝考証学の成果としては,以下の点を挙げることができよう。…

【戴震】より

…西洋暦算学に通じ,最初の著述は《疇算(ちゆうさん)》,ついで文字音韻学の論文や古代科学技術の研究《考工記図注》,また《屈原賦注》《詩補伝》を書く。都に出て紀昀(きいん)らの知遇をうけるが,会試に及第できずに過ごすうち,《孟子字義疏証》を著す。理・道・性などの語義を論証して孔孟の心を把握しようとするのは,日本の伊藤仁斎の古義学の方法に似るが,戴震は朱子学を批判して人間の欲望肯定の哲学を展開し,日ごろの著述の中で最も大切なものとみずからいう。…

【中国哲学】より

…この考証学は実証的であるだけに,学術上の寄与は大きいが,そのかわり哲学的な内容にはほとんど見るべきものがない。ただひとり考証学の大家の戴震は,その《孟子字義疏証》において,朱子学の理性至上主義に批判を加え,そのリゴリズムを排したのが異彩を放っている。アヘン戦争以後,列国の中国侵略が激化するとともに,思想界にも大きな変動が生まれ,康有為などをはじめとして改革論・革命論を唱えるものが続出するようになったが,その多くは政治論・社会論の範囲にとどまり,哲学の域にまで達した例は乏しい。…

※「孟子字義疏証」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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