宇宙開発政策(読み)うちゅうかいはつせいさく(英語表記)Space Developement Policy

日本大百科全書(ニッポニカ) 「宇宙開発政策」の意味・わかりやすい解説

宇宙開発政策
うちゅうかいはつせいさく
Space Developement Policy
Space Policy

宇宙開発の長期的かつ基本的な方向を見定めながら、専門機関等によって実施される政策。日本の宇宙開発政策は、かつては宇宙開発委員会による宇宙開発大綱に示されていたが、21世紀に入ってからの宇宙開発の内外における情勢変化に対応して、新しく作られた宇宙開発戦略本部による宇宙基本法および宇宙基本計画に基づいて行われる。

[久保園晃]

宇宙開発委員会

宇宙開発委員会は当初文部科学省設置法および宇宙開発委員会令に定める法の規定により、その権限に属する事項を処理する。具体的には、日本の宇宙開発の総合的、計画的な推進のため、重要な政策、関係行政機関との調整等について企画・審議および決定を行う機関であったが、2008年(平成20)に宇宙開発戦略部会が発足して以来、宇宙航空研究開発機構JAXA、ただし2003年9月までは宇宙開発事業団で、通称NASDA)の業務運営の基準となる宇宙開発に関する計画を管理・監督することとされ、権限が縮小されてしまった。

 1968年(昭和43)5月宇宙開発委員会設置法に基づき、当時の総理府に設置され同1968年8月発足した(旧科学技術庁舎内)。その後、2001年(平成13)1月の中央省庁再編で、文部省と科学技術庁が再編統合されて文部科学省となったのを機に、同省の所管とされた。宇宙開発委員会の構成は、委員長と4人の委員をもって組織され、委員長と委員は、両議院の同意を得て文部科学大臣が任命する。

 同委員会には、常設部会と必要に応じて特別部会が設置されて、調査・審議される。常設部会には、次の4部会がある(2001年1月に改組)。

(1)計画・評価部会(宇宙開発にかかわる計画およびその評価に関する重要事項。前計画調整部会に相当)。

(2)利用部会(宇宙の利用の推進に関する重要事項。前宇宙環境利用部会に相当)。

(3)安全部会(宇宙開発における安全の確保に関する重要事項。前安全評価部会に相当)。

(4)調査部会(宇宙開発における事故・トラブルの原因究明およびその対策に関する事項。前技術評価部会に相当)。

 特別部会としては、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針」(1997年8月内閣総理大臣決定)を踏まえつつ、今後の宇宙開発に関するプロジェクトの評価システムと共通的評価指針について調査・審議する「評価指針特別部会」が、設置されることとなった。

[久保園晃]

宇宙開発の意義

東西冷戦構造の終焉(しゅうえん)に伴い、宇宙開発の意義は、国家威信の象徴としてよりも人類社会への貢献という観点が強くなった。具体的には、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアの航空宇宙軍事技術の民生利用への転換による産業化が進展し、各国の通信衛星等が宇宙ビジネスとして打ち上げられ利用される一方、月・火星等の太陽系やそれ以遠の深宇宙の科学探査が国際共同プロジェクトとして着実に成果をあげている。このような宇宙活動に日本が参入するためには、国際競争力のある技術開発等を強力にしなければならない。

 国境を越えた人類の生活圏全体の生存を確保する宇宙開発とその利用の意義については、以下の3点に集約される。

(1)人類共通の知的財産を蓄積する。

 日本が諸外国とともに宇宙空間を探査し利用することは、宇宙の起源、地球の諸現象等に関する普遍的な知識・知見を獲得するものであり、また宇宙科学技術の平和利用による人類共通の知的財産と生存基盤の形成をはじめ、日本の活性化につながる。

(2)社会経済基盤を拡充する。

 通信・放送、測位、天気予報、地球環境・災害の監視、資源探査等の宇宙開発活動は、すでに一部実利用の段階に入っており宇宙を利用した産業の開拓など、今後の宇宙利用の拡大は、IT(情報技術)革命と相まって、日本のみならず人類全体に貢献する社会経済基盤の形成に不可欠なものである。

(3)先端技術を開拓する。

 宇宙という特殊な環境を舞台とする宇宙開発は、幅広い分野の技術を結集する先端的な総合技術であり、進展中のITの飛躍的発展のなか、さまざまな分野の新技術を開拓している。たとえば、生命の起源、生物の全遺伝子情報の解読、製薬・治療等のライフサイエンス、環境監視・保護技術、センサーコンピュータロボット・自動翻訳機等の情報機械技術、新材料とその革命的応用のナノテクノロジー(10億分の1メートル超微細技術等)などである。これらは、新たな付加価値をもつ産業を創出する可能性がある。

[久保園晃]

宇宙開発委員会の役割

従来、日本の宇宙開発指針としては、宇宙開発委員会が定める宇宙開発政策大綱がある。大綱は数年ごとに改訂され、この大綱に沿って毎年度改訂される宇宙開発計画に基づいて、関係各省庁の協力のもとに一元的に推進されてきた。

 ところが、旧科学技術庁宇宙開発事業団のH-Ⅱロケットおよび旧文部省宇宙科学研究所のM-Ⅴロケットの3回の打ち上げ失敗(H-Ⅱは1998年(平成10)2月と1999年11月、M-Ⅴは2000年2月)のため、宇宙開発委員会は中央省庁再編の渦中にもまれて格下げとなり、文部科学省の審議会の一つ(名称は変わらず宇宙開発委員会)となった。

 それまで日本の宇宙開発は、宇宙開発事業団(NASDA)、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所NAL)の宇宙3機関が中心となって推進されてきたが、中央省庁再編によって3機関とも文部科学省の傘下に統合され、より信頼性の高い宇宙開発を効率的かつ効果的に推進するために2001年(平成13)4月6日「連携・協力推進に関する協定」に基づく運営本部が合同で設置された。

 NASDA(特殊法人)、ISAS(国立研究所)、NAL(独立行政法人)の3機関は、運営本部の調整のもとで協力し、本省関係部局および宇宙開発委員会の支援を得て、文部科学省としての宇宙開発・利用活動を円滑に進めることになり、2003年(平成15)10月、この3機関が統合して新たな独立行政法人、宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が誕生した。

 一方、文部科学省以外の関係省庁を含めた日本の宇宙開発・利用の宇宙政策等については、新しく内閣府に設置された首相の諮問機関である総合科学技術会議で議論され、指針が出されることになった。しかしながら、同会議は科学技術全般の戦略・政策等をたてねばならないが、宇宙政策の分野については、文部科学省の宇宙開発委員会が支援することになる。

 縦割り行政の欠陥を是正し、スリム化を図るというのが、中央省庁再編の目的だが、宇宙開発については、上位の総合科学技術会議と文部科学省以外の関係省庁との関連性からみると、従来よりもかえって複雑となった。

[久保園晃]

宇宙政策大綱から中長期戦略へ

前述のように日本の宇宙開発は、宇宙開発委員会が宇宙開発大綱を策定し、その政策の指針としていた。大綱は、1978年(昭和53)の第一次策定以来1996年(平成8)の第四次まで改訂されていた。それに基づいて、関係省庁は宇宙開発委員会に次年度要望を提出、審議・調整されて旧大蔵省の概算要求に組み入れられる。そして国会で予算成立後、同委員会は各年度の宇宙開発計画を策定して、それぞれ実施されてきた。

 中央省庁再編目前の2000年(平成12)12月14日、宇宙開発委員会は、「わが国の宇宙開発の中長期戦略」を策定し、改組に備えた。その内容は、日本全体の具体的な科学技術の研究開発計画に反映され推進されるものとし、新設された総合科学技術会議の政策等に明確に位置づけられ、国全体として整合性がとれ効果的に実施されるものである。こうして、従来の政策大綱は、中長期戦略と改称された。この中長期戦略に示されている方針なども、今後の世界の宇宙開発の進展につれて、従来の大綱と同じように数年ごとに改訂されることになろう。

[久保園晃]

宇宙基本法と宇宙開発戦略本部

中国やインドなど新興国が宇宙活動の拡張を続け、宇宙活動が世界的に新たな展開を示し、大きな変貌(へんぼう)を遂げようとしている21世紀初頭において、2006年(平成18)3月、自由民主党の宇宙平和利用決議等検討小委員会は、日本の宇宙開発が非軍事に限られている宇宙利用政策の見直しなどを盛り込んだ宇宙基本法(仮称)の策定を柱とした論点をまとめ、翌2007年の通常国会に議員立法でこの基本法(仮称)を提出することとした。議論・審議の結果、2008年5月21日に仮称がとれて成立し、8月27日に施行された。

 宇宙基本法は、宇宙開発利用の果たす役割を拡大することを目的に、宇宙開発利用に関する六つの基本理念(宇宙の平和的利用、国民生活の向上、産業の振興、人類社会の発展、国際協力等の推進、環境への配慮)を定めるとともに、その実現のために基本となる事項、国の債務等を明らかにする宇宙基本計画の策定と内閣の司令塔となる宇宙開発戦略本部を設置することを定めている。

 宇宙基本法の趣旨は、これまで主として文部科学省系の官僚や同省内の宇宙開発委員会に任せられていた宇宙開発に関する政策決定の主導権を、政治家のもとに取り戻す点にあるとみることができる。

 宇宙開発戦略本部の本部長には、内閣総理大臣があてられるとともに、副本部長には内閣官房長官と宇宙開発担当大臣があてられることになり、その他の防衛大臣をも含む国務大臣もすべて構成要員(本部員)とされている。

[久保園晃]

宇宙基本計画

宇宙基本法の施行のあとに設立された宇宙開発戦略本部は、2009年(平成21)6月2日に宇宙基本計画を決定した。宇宙基本計画のなかで総合的かつ計画的に実施すべき政策を以下の九つのシステム・プログラムに集約しつつ、人工衛星等の開発利用計画を示した。

(1)アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム
(2)地球環境観測、気象衛星システム
(3)高度情報通信衛星システム
(4)測位衛星システム
(5)安全保障を目的とした衛星システム
(6)宇宙科学プログラム
(7)有人宇宙活動プログラム
(8)宇宙太陽光発電研究開発プログラム
(9)小型実証衛星プログラム
 なお、実施の体制・組織の見直しについては今後の検討課題とされている。また、有人宇宙活動プログラムについては、今後とも国際宇宙ステーションに継続参加するが、月・火星等への宇宙探査、とくに有人活動へと広く見直すこととされた。

[久保園晃]

宇宙開発委員会の廃止

2012年(平成24)7月、日本の宇宙政策を効率的・効果的に進めるため、政府に提言や勧告を行う内閣総理大臣(宇宙開発戦略本部長)の諮問機関として、宇宙政策委員会が発足した。それに伴い、宇宙開発委員会および宇宙開発戦略本部の下部組織である宇宙開発戦略専門調査会は廃止された。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android