改訂新版 世界大百科事典 「安堅」の意味・わかりやすい解説
安堅 (あんけん)
An Kyǒn
朝鮮,李朝初期の画家。生没年不詳。池谷(慶尚南道咸陽)の人で,字を可度または得守,号を玄洞子あるいは朱耕という。宮廷の図画署の画員として世宗~文宗朝(1418-52)ころに活躍した。30歳前後に世宗王の第3子で,当時の芸術愛護の第一人者でもあった安平大君(1418-53)李瑢の寵愛を受け,大君の中国画コレクションから中国画を大いに学んだ。山水画にもっとも長じたが,その画風は高麗末・李朝初に伝えられた北宗の李成・郭熙派の流れを汲むものと新しく興った明代浙派の画風を巧みに調和させたものである。彼の唯一の直筆である《夢遊桃源図》(奈良,天理大学)は李朝絵画の中でももっともすぐれた作品の一つとされている。絵に付された大君の跋文によれば,大君が当時の高名な文人朴彭年と共に桃源郷に遊ぶ夢を見,その夢中の理想郷の光景を千載に伝えるため,ただちに安堅に命じて描かしめたのが,この絵であるという。
執筆者:吉田 宏志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報