日本大百科全書(ニッポニカ) 「山瀬春政」の意味・わかりやすい解説
山瀬春政
やませはるまさ
生没年不詳。江戸中期の本草(ほんぞう)学者、物産学者。紀州和歌山の人で、通称を梶取屋治右衛門(かんどりやじえもん)といい、如水軒と号した。稲生若水(いのうじゃくすい)の門人で、物産に詳しく、医術・薬舗などを業とした。彼の著『鯨志(げいし)』は1760年(宝暦10)に刊行され、日本のクジラ専門書中最古のものである。セミクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、コククジラ、マッコウクジラなど14種を、自己の実見から得た材料によって図示し、これに専門的な解説を加えたもので、それぞれの特徴をよく示している。岡研介(おかけんすけ)の『紀州産鯨について(きしゅうさんくじらについて)』は本書を忠実にオランダ語に訳したもので、P・F・B・von・シーボルトの日本のクジラに関する知見に役だったばかりでなく、その『日本動物志』の海獣部を担当したシュレーゲルHermann Schlegel(1804―1884)によっても参考とされた。
[大村秀雄]