改訂新版 世界大百科事典 「帰休制度」の意味・わかりやすい解説
帰休制度 (ききゅうせいど)
雇用調整の一つの方法で,不況や企業の業績悪化による操業短縮などにより,労働需要が減少した場合に,企業が労働者の全部または一部を一定期間休業させる制度をいい,正式には一時帰休制度と称する。1950年代の不況の時期にたびたび用いられ,繊維・電機産業などで若年女子労働者を一時親もとに帰したため〈帰休〉の名が使われた。その後,高度成長が続いたためもあって,これが採用されることはあまりなかったが,73年の第1次石油危機後の長期不況の時期に,国が解雇を予防するため,一時帰休を実施した企業が支払った休業手当に関して雇用調整給付金を支給したこともあって,多くの企業で採用された。一時帰休の場合には,労働基準法に基づき使用者に平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことが義務づけられているが,この時期の休業手当には平均賃金の60%をかなり上回るものが多く,休業の期間とも関連するが100%のものもみられた。
一時帰休制度と似たものにアメリカのレイオフlay-offがあるが,これは,再雇用の可能性をもつとはいえ,雇用関係がなくなる解雇であり,一時帰休制度の場合雇用関係が継続しているのとは異なる。もっとも,1950年代の一時帰休制度には,再雇用の条件つきながら,一時帰休者は離職者とみなされたうえ失業保険金を支給されるものもあった。また,レイオフおよび再雇用recallの順序は,労使間の協定によって,作業工程等の単位ごとに勤続年数を基準にして決められる,いわゆる先任権seniorityに基づいて決定される(勤続年数の長い者が遅くレイオフされるとともに,早く再雇用される)というまぎれのないルールが確立している(先任権制度)。日本では,解雇は極力避けなければならないとされている一方,解雇が行われる場合にその順序について明確な基準がないばかりでなく,実際には勤続年数が長い中高年労働者が解雇の対象に選ばれることが多いのに対して,レイオフは比較的容易に行われる(労働時間を短縮することが前提となる場合はある)一方,先任権という基準が確立している。65年ころに,経団連がレイオフを参考にして〈日本的レイオフ〉制度の導入を提唱したが,高度成長が持続したこともあって,普及しなかった。
→雇用調整
執筆者:柳本 紀男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報