日本大百科全書(ニッポニカ) 「建売住宅」の意味・わかりやすい解説
建売住宅
たてうりじゅうたく
不特定多数の購買者を対象に見込みにより生産、供給される住宅で、多くの場合、土地付きの独立住宅ないし長屋建住宅である。第一次世界大戦後に大都市地域で建設業者(大工)が始めた、住宅供給の企画、土地の調達、建設を行って買手を捜して売却するという生産・供給形態に端を発する。建築主からの注文に応じるだけのそれまでの生産・供給形態以外に、自ら需要をつくりだすことによって休業期間を少なくすることに建設業者(大工)の本来の目的があった。したがって、電鉄会社が沿線の人口誘致を目的としてかなり大規模な住宅地開発を行い、土地、住宅を都市就業者に売却したことに始まる分譲住宅とは、その起源において趣(おもむき)を異にする。
1965年(昭和40)ごろまでの建売・分譲住宅は大きく二つに分類できる。一つは「分譲住宅」の流れをくむ、まとまった戸数で供給される高水準の住宅であり、もう一つは「建売住宅」の流れをくむ低水準の住宅である。その後、昭和40年代以降、住宅戸数が充足してくると、若年層の世帯形成と全般的な生活水準の向上、持ち家志向の高まりに伴い、建売住宅は都市の住宅の主流になってきたが、このような持ち家需要層にあっては経済的能力はかならずしも高くない。また地価の高騰と相まって住宅の延(のべ)床面積、室数は一定水準を確保しているものの、敷地面積は狭小なものが多く、庭や隣戸間隔が十分にとれないなど周辺環境上の問題が発生した(典型例は、いわゆるミニ開発)。なお今日では、住宅形式が独立住宅の場合、「建売住宅」と「分譲住宅」とは区別されずに用いられている。
建売住宅は、注文住宅が建築主の依頼によって初めて建設が行われるのとは異なり、供給者の一貫した主導の下で企画、計画、建設、供給ができるために近代的企業活動になじみやすい特質をもつ。また一種の大量生産方式であるので、工事の合理化、部材・施工管理による品質向上、費用の低廉化などの生産技術面での可能性がある。これらの特質はプレハブ住宅の生産、供給に生かされているが、一般的な建売住宅供給者である地域の大工、工務店は、建設量が小規模であるために個別建設にとどまっている。
一方、購買者にとって建売住宅は、現物を見て選べる安心感、手軽さ、土地捜しや設計、諸手続の手間が省ける利点がある反面、購買者の要求を直接に反映させにくいなどの難点もあり、そのために建設途中から購買者の注文を取り入れる「売建(うりたて)」ともいうべきイージーオーダーの供給方式もある。
[多治見左近]