弾性ヒステリシス
ダンセイヒステリシス
elastic hysteresis
応力-ひずみ関係の弾性範囲内において,負荷と除荷のサイクルでループを描き,エネルギー損失を生じることをいう.この様子は,結晶材料と非晶質材料とでは相違がある.一例を図に示す.
結晶材料の第一の原因は熱弾性余効で,平衡状態の負荷・除荷では生じなかったものが急激にこれを行うと,ポアソン効果による体積変化に伴って,発熱冷却が生じるために起こる.このほか,転位の運動,負荷により格子間原子が単位胞内でジャンプして,規則化するために起こるものなどがある.後者については,体心立方金属中に固溶しているC,N,O,Bなどの原子半径の小さい格子間原子がひずみを受けて,より安定な方位への分布が増加し,除荷によってもとのランダムな分布へ戻るスネーク規則化という現象がある.弾性ヒステリシスは異常な内部摩擦を生じるので,振動の減衰として測定されることが多く,複数の原因によるものが知られている.高分子材料は,一般に弾性ヒステリシスが大きく,主として分子鎖のコイルの伸長・収縮のふるまいの相違として解釈されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
弾性ヒステリシス
だんせいヒステリシス
elastic hysteresis
物体の弾性限度内では,応力とひずみは比例しているとみなされるが,厳密には,負荷する過程と除荷する過程ではわずかながら経路が異なり,図示すれば,直線ではなくループを描く。この現象を弾性ヒステリシスまたは弾性履歴現象といい,弾性前効果や弾性余効によって起る。実際には,精密測定によってようやく検出できる程度の現象である。弾性限度を大きくこえ,塑性領域において除荷と再負荷を繰返せば,さらに明瞭なループを描く。この現象を塑性ヒステリシスという。除荷したのちにさらに反転する荷重 (たとえば引張り後に圧縮荷重) を加えれば,バウシンガー効果が現れる。また,この塑性ヒステリシスを繰返して受けると材料には疲れ現象が生じる。この疲れを塑性疲れあるいは低サイクル疲れという。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の弾性ヒステリシスの言及
【弾性】より
…また弾性限度内の応力を発生してからこれを0にするとき,応力が増加していくときと減少していくときとでは応力の値が同じであってもひずみの値は異なる場合がある。この現象は弾性ヒステリシスと呼ばれる([ヒステリシス])。 ひずみの大きさを測る方法としては,細い金属線を物体にはりつけ,物体の変形に伴って金属線も同時にひずむことを利用して,その電気抵抗の変化を測定する方法などが使われる。…
【ヒステリシス】より
…これを誘電ヒステリシスというが,この場合にも,強誘電体の分域の境界移動に対する障害が原因となる。また,金属の応力とひずみとの関係にもヒステリシス(弾性ヒステリシスという)が現れる。この場合の原因は,金属内で[転位]が走り,すべり変形が生ずることによる。…
※「弾性ヒステリシス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」