日本大百科全書(ニッポニカ) 「従兄ポンス」の意味・わかりやすい解説
従兄ポンス
いとこぽんす
Le Cousin Pons
フランスの作家バルザックの小説集『人間喜劇』中の長編小説。1847年刊。主人公の、すでに往昔の名声を失った音楽家シルバン・ポンスは、美術品収集と美食に異常な情熱を燃やしている。パリで一、二の収集品を隠し持つかたわら、御馳走(ごちそう)にありつこうと、毎晩金持ちの親戚(しんせき)の食卓に顔を出すが、彼の莫大(ばくだい)な財宝にパリの下層社会に不遇をかこつ連中が目をつけ、ねらう。彼らの陰謀に気づいたポンスはショックで倒れ、全財産を親友のシュムケに遺贈して死ぬが、策謀によって彼を冷遇した親戚一家に横領されてしまう。善良な一老人縁者の財産をめぐるブルジョア社会裏面の物欲模様と、不相応な情熱に取り憑(つ)かれた人間の悲劇を活写したこの小説は、同様にパリを舞台に富裕な一族と貧しい独身縁者との間におこるドラマを描いた姉妹編『従妹(いとこ)ベット』La Cousine Bette(1846)と並んで著者最晩年の傑作。
[加藤尚宏]
『水野亮訳『従兄ポンス』上下(岩波文庫)』▽『平岡篤頼訳『従妹ベット』上下(新潮文庫)』