心無(読み)こころない

精選版 日本国語大辞典 「心無」の意味・読み・例文・類語

こころ‐な・い【心無】

〘形口〙 こころな・し 〘形ク〙
事象に応じた適切な判断や配慮ができない状態を表わす。思慮がない。無分別である。不注意である。
源氏(1001‐14頃)帚木「格子をあげたりけれど、守、心なしと、むつかりて、おろしつれば」
② 他人の気持や人情理解しない。思いやりがない。情がない。
万葉(8C後)一五・三七八四「許己呂奈伎(ココロナキ)鳥にそありけるほととぎすものもふ時に鳴くべきものか」
③ 俗世から離れ喜怒哀楽の情を持たない。世捨人の境地である。
山家集(12C後)上「こころなき身にもあはれはしられけり鴫たつ沢の秋の夕暮」
④ 風雅、風流を解する感受性がない。情趣を解しない。もののあわれがわからない。無風流である。
※千載(1187)秋上・二五八「野分する野辺のけしきをみる時はこころなき人あらじとぞ思ふ〈藤原季通〉」
⑤ 進んで心を働かそうとしない。関心をもたない。気を使わない。
※俳諧・笈の小文(1690‐91頃)「紙布(かみこ)、綿小(わたこ)などいふもの、帽子、したうづやうのもの、心々に送りつどひて、霜雪の寒苦をいとふに心なし」
⑥ 私意、私情をもたない。虚心である。ふたごころがない。
義経記(室町中か)二「その時御目にかかり始めて、又こころなくして、奥州に御ともして」
⑦ (人間以外の生物や無生物に対して用い) 知、情、意を具有していない。人間の心をもっていない。
※志香須賀本古今(905‐914)哀傷「こころなき草木といへどあはれなり今年は咲かずともにかれなん〈尚侍広井女王〉」
謡曲・西行桜(1430頃)「心なき草木も、花実の折は忘れめや」
無心である。期待しない。
読本椿説弓張月(1807‐11)前「われ心ありて来たれども終に索(もとめ)得ず。今心なくして鶴を見るこそうれしけれ」
[語誌]→「こころなし(心無)」〔名〕の語誌。
こころな‐げ
〘形動〙
こころな‐さ
〘名〙

こころ‐なし【心無】

〘名〙
① 思慮、分別がないこと。また、その人。
※源氏(1001‐14頃)若紫「例の、心なしの、かかるわざをして」
② 風雅心、風流心のないこと。また、その人。無風流者。
歌謡隆達節歌謡(1593‐1611)「心なしとはそれ候よ、冴えた月夜に黒小袖」
[語誌]形容詞「こころなし」の終止形名詞化したもの。形容詞の用例はすでに上代に見えるが、名詞としての確例が見られるのは中古に入ってから。

こころ‐な【心無】

(形容詞「こころない」の語幹) 無情なさま。無風流なさま。感動表現に用いる。
※万葉(8C後)一〇・二三〇二「ある人のあな情無(こころな)と思ふらむ秋の長夜をねさめ臥すのみ」

こころ‐ない【心無】

〘連体〙 (形容詞「こころない」の連体形から) あたたかい心がない。理解がない。
※都会の憂鬱(1923)〈佐藤春夫〉「あまりに心ないわざのやうに彼には思へた」

しん‐なし【心無】

〘名〙 中にしんを入れてないもの。内部がからになっているもの。
※俳諧・物種集(1678)「夕風にくんなりと成柳原〈西鶴〉 霞のうすきしんなしの筆〈正甫〉」

こころ‐な・し【心無】

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