内科学 第10版 「急性胃拡張」の解説
急性胃拡張(胃・十二指腸疾患)
急激な胃壁の緊張低下あるいは麻痺が生じ,器質的な閉塞機転がないにもかかわらず,胃内容の十二指腸への排出が障害され,胃液,空気,摂取物などが貯留し胃全体が著明に拡張した状態をいう.
病態生理
上腹部の手術後に最も多いといわれており,その他,消耗性疾患の高齢者,飢餓,腹膜炎,腹部外傷,糖尿病,感染症,精神疾患などに合併することがある.さらに,空気嚥下症や呼吸障害がある場合には胃拡張は悪化する.最近では,術後の急性胃拡張は麻酔薬や周術期の管理の進歩により発生する頻度は減少しているが,一方では過食による症例がたびたび報告されている.
臨床症状
これといった特徴的な症状はないが突然に起こる.よく認められるのが胃の拡張に伴うしゃっくり,胸やけ,少量の嘔吐であり,狭心症の発作に類似する場合がある.
検査成績
上腹部の著明な膨隆を呈し,腹部単純X線像にて拡張した胃を認める.血液検査では,高度の脱水のため血液の濃縮所見,Na,Cl,HCO3などの低下が認められ,嘔吐の影響も加わって代謝性アルカローシスの所見を示す.
診断
病歴,臨床症状から推定され,腹部単純撮影,さらにはCTにて胃内容物や空気で著明に拡張した胃が認めることから診断される.急性腹症との鑑別が重要であるが,胃穿孔や胃破裂の場合を除き,腹膜刺激症状や筋性防御を認めない.
治療
絶食,胃内容の持続的吸引を直ちに行う.輸液による脱水の是正,電解質の補正,栄養補給,酸分泌抑制薬,消化管運動賦活薬の投与を行う.放置すると胃壁の血流障害による穿孔や胃壊死を惹起し,予後不良となるので早期診断,早期治療が重要である.[上西紀夫]
■文献
Bochus, HL : Gastroenterology. 4th ed, Vol 2, WB Saunders, Philadelphia, 1985.
長嶺敬彦:統合失調症と急性胃拡張.日本医事新報 (4209): 30-32, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報