胃壁に穴があき,完全に腹腔につき抜ける状態。穴があいても大網や膵臓などの隣接臓器によっておおわれる場合を被覆性穿孔といって区別する。穿孔は胃潰瘍の合併症として起こることが最も多く,その他,胃癌や,誤飲した異物または外傷によって起こることもある。胃穿孔を起こすと胃内容が腹腔内にもれて,急性汎発性腹膜炎となるが,被覆性穿孔の場合には限局性腹腔炎や化膿巣をつくる。穿孔が起こりやすいのは一般に前壁の潰瘍の場合で,後壁の潰瘍の場合は被覆性穿孔の形をとりやすい。胃穿孔が起こると,突然,心窩部(しんかぶ)(みぞおち)に激痛を訴え,同時に肩,とくに右肩に痛みを感じることがある。しばしば悪心や嘔吐を伴い,また全身の循環障害のために頻脈,冷汗が出,顔面が蒼白となり,ショック状態となることもある。腹壁は板のように硬くなり(筋性防御),腸の運動も停止する。穿孔の穴が小さかったり,被覆性穿孔の場合には,症状はもっと軽度となり,亜急性または慢性となることもある。このような場合には,安静と絶食,胃管による胃内容の吸引,さらに中心静脈に高濃度ブドウ糖液を輸液する中心静脈栄養法,適当な抗生物質の使用で治ることもある。しかし穿孔の多くの場合には外科的手術が必要である。全身状態が比較的良好なときは胃潰瘍に対しては,一般的に胃切除術が行われるが,全身状態が悪く手術に時間がかけられないときには,とりあえず穿孔部位を閉じ,腹腔内をよく洗い,膿を取り除き,腹膜炎としての手術のみ行い,後日あらためて胃潰瘍に対して胃切除術を行う。穿孔後12時間以内で腹腔内に食物残渣もなく,膿も少ないときは一般に経過が良好であるが,穿孔後24時間以上経過した場合は,腹膜炎が悪化して死亡することもある。最近では抗生物質や栄養法の進歩によって,一般的には手術後の経過は良好である。
執筆者:北島 政樹
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出血、癌(がん)化、狭窄(きょうさく)とともに胃潰瘍(かいよう)(消化性潰瘍)の主要な合併症の一つ。
[編集部]
…下血の場合は,腸内の硫化水素により硫化ヘモグロビンとなり,ノリのつくだ煮状のタール便となることが多い。胃壁が完全に欠損し潰瘍が穿孔(せんこう)すると(胃穿孔),胃液が腹腔内に漏出し腹膜炎を起こし,激痛や発熱がみられる。しかし,潰瘍がありながら,まったく症状を訴えない場合も約10%くらいあり,とくに胃潰瘍の再発時には無症状のことが多い。…
※「胃穿孔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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