成人の歯科矯正治療

六訂版 家庭医学大全科 「成人の歯科矯正治療」の解説

成人の歯科矯正治療
(歯と歯肉の病気)

成人矯正の特徴

 成人不正咬合に対する歯科矯正治療は、若齢者に対するものと比べて決して容易なものではありません。成人矯正のいちばん大きな特徴は、成長・発育による変化を期待できないことです。

 上あごと下あごの関係のずれによって上顎前突あるいは下顎前突(受け口)になっている成長期の患者さんには、矯正装置を用いてあごの骨の成長を長期間にわたってコントロールし、バランスのとれた噛み合わせになるように治療を行っていくことが可能です。

 一方、成人の患者さんには成長がみられないため、治療は歯の移動による変化が主体となり、抜歯して噛み合わせを改善する場合もあります。さらに、上あごと下あごのずれが大きくて歯の移動だけでは改善できない場合は、外科手術を伴う歯科矯正治療が選択されることもあります。

 その他にも、若齢者に比べると成人の骨は緻密(ちみつ)になっているため、歯の移動には時間がかかりやすいといわれており、矯正装置による違和感や痛みを感じたり、順応するのに少し時間がかかる場合もあります。

 また、歯を支える骨(歯槽骨(しそうこつ))は、加齢歯周病によって少しずつ減っていきます。骨が減ると歯の根を支持する機能も衰えがちになり、動揺が大きくなって強い矯正力をかけることができなくなることもあります。

 歯が抜けた場合には、人工の歯(ブリッジインプラントなど)を用いてすきまを埋める必要がありますが、この際に部分的にマルチブラケット装置を装着して人工の歯が入るすきまを広げることもあります。

社会的背景も考慮する

 矯正装置を装着すると見た目や発音支障を来すことがあるので、一人ひとりの患者さんの社会的背景を十分に考慮しながら、治療のタイミングや装置の種類を選択して、なるべく無理のないように治療計画を立てていきます。

 透明で目立たないブラケットや、歯の裏側につけるリンガルブラケット装置(舌側矯正装置)を選択することもあります。

*    *    *

 以上のように、成人の矯正治療では若齢者とは異なる特別な配慮を必要とする場合もありますが、比較的高齢であっても、健康な歯周組織の状態が維持されていれば、歯科矯正治療を行うことは十分可能です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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