改訂新版 世界大百科事典 「戦時規約」の意味・わかりやすい解説
戦時規約 (せんじきやく)
戦時において両交戦国の軍司令官や部隊の指揮官の間で口頭または文書によりその権限内の軍事的事項に関して結ばれる合意のことで,軍事規約とも呼ばれる。軍司令官等は一般に相手と国際条約を締結する権限を与えられていないにもかかわらず,彼らの合意だけで成立する戦時規約は両交戦国を法的に拘束する。これは,戦時の特殊事情を考慮して,迅速性と実効性の観点から国際法が例外的に認めているものである。戦時規約は,軍司令官等の指揮下にある軍隊,軍事施設や装備等の軍事上の事項にのみかかわるもので,たとえば戦闘の一時停止,休戦,降伏,捕虜交換の協定がこれにあたる。逆に占領地域の割譲や国家組織の変更といった政治的・統治的事項は戦時規約の対象とはなりえない。また戦時規約は戦争継続中に限り結ばれるものであって,国家全体の敗戦の際の降伏協定や平和条約が,これに含まれないことはいうまでもない。
執筆者:藤田 久一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報