日本大百科全書(ニッポニカ) 「投石具」の意味・わかりやすい解説
投石具
とうせきぐ
紐(ひも)の中央部を広くして、ここに石を包み込み、紐の両端を握って頭上で振り回し、片端を放すことで石を遠くに飛ばす仕掛け。ヨーロッパでは青銅器時代に広く分布し、ミケーネ文化の記念碑に描かれ、『旧約聖書』の「サムエル記」上、第17章にも記載がある。さまざまな民族の間でも知られ、材質、形態、目的もさまざまである。ミクロネシアのポナペ島で報告されたハイビスカスの繊維で編んだものや、南米のインカ帝国で用いられた布製、革製のものは武具の一種である。一方、狩猟用具としての投石具は、南米のアンデス地帯、チリ最南端のフエゴ島、アルゼンチンのパタゴニア、さらにメラネシアやポリネシアで知られており、ボリビアの先住民集団アイマラやチベット諸民族の間では玩具(がんぐ)としても利用されている。このほか、インカ帝国では、成人儀礼の際、勇敢さ、力強さを与えるため、親類がこれで子供を打ち据えたといわれ、また雷神が左手に持つ道具とも考えられていた。ネパールの民族で、悪魔を石に封じて投げ捨てる事例が報告されていることからも、しばしば宗教的な意味づけがなされたことが考えられる。
[関 雄二]