日本大百科全書(ニッポニカ) 「指定管理鳥獣捕獲等事業」の意味・わかりやすい解説
指定管理鳥獣捕獲等事業
していかんりちょうじゅうほかくとうじぎょう
鳥獣保護管理法で定められた「指定管理鳥獣捕獲等事業制度」に基づき、深刻な農作物被害や生態系への影響を引き起こすため、集中的かつ広域的に管理(その生息数を適正な水準に減少させる、またはその生息地を適正な範囲に縮小させること)を図る必要があるとして環境大臣が定めた鳥獣(指定管理鳥獣)について、都道府県または国が捕獲等をする事業。
近年、ニホンジカやイノシシなどの鳥獣が急速に増加して生息分布が拡大し、生態系や農林水産業、生活環境への被害が深刻化している。環境省と農林水産省は2013年(平成25)12月に「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を打ち出し、ニホンジカ(北海道を除く)とイノシシを2023年度(令和5)までに2011年度の推定個体数から半減させる目標を掲げ、この目標を達成するため、捕獲事業の制度化および支援策を検討することとした。
こうした状況を受けて、2014年の環境省管轄の「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(平成14年法律第88号。略称「鳥獣保護管理法」)改正により、「指定管理鳥獣捕獲等事業制度」が創設され、指定管理鳥獣捕獲等事業が2015年から開始された。指定管理鳥獣にはニホンジカとイノシシの2種が指定された。
指定管理鳥獣捕獲等事業については、捕獲の禁止(鳥獣保護管理法第8条)のほか、捕獲した鳥獣の放置の禁止(同第18条)、夜間銃猟の禁止(同第38条第1項)の各禁止事項が適用されない。
指定管理鳥獣捕獲等事業を実施する都道府県等は、事業の内容を具体的にまとめた事業実施計画を策定し、この計画に基づいて捕獲等事業を行う。事業を実施する取組み等に対しては、必要な経費を国が交付金として支援する。事業の全部または一部について、認定鳥獣捕獲等事業者、その他環境省令で定める者に委託される。
この事業に関連する法律として、農林水産省管轄の「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号。略称「鳥獣被害防止特別措置法」)がある。この法律は、鳥獣被害が、農林水産業に対する被害に加え、人身被害や交通事故の発生など、広域化・深刻化していることに対応するため、鳥獣被害防止のための施策を総合的かつ効果的に推進し、農林水産業の発展・農山漁村地域の振興に寄与することを目的として、2007年に制定された。農林水産大臣が被害防止の基本指針を作成し、これに即して市町村等が鳥獣被害防止計画を作成すると国の交付金による財政支援等が行われる。2021年の同法改正では、都道府県と市町村、市町村間の連携を強化すること、捕獲鳥獣の有効利用(ジビエ、ペットフード、皮革など)を促進することなどが明記された。
環境省・農林水産省が2023年に公表した資料によれば、2021年度のニホンジカ(本州以南)の推定個体数(中央値)は約222万頭、イノシシが約72万頭となっている。基準となる2011年度のニホンジカ(本州以南)とイノシシの推定個体数(中央値)はそれぞれ約233万頭、約121万頭で、イノシシは捕獲強化と豚熱の影響で順調に減少している一方、ニホンジカについては、2023年度の半減目標達成が難しいことから、2028年度の目標達成を図ることとなった。なお、北海道のニホンジカについては独自の計画と目標設定による個体数管理が行われている。
[石井信夫 2023年11月17日]