摂食調節ホルモンと肥満

内科学 第10版 「摂食調節ホルモンと肥満」の解説

摂食調節ホルモンと肥満(内分泌系の疾患)

 摂食は,中枢末梢で産生される摂食亢進物質と抑制物質の複雑な相互作用により,巧妙に調節されている.摂食調節機構に関し,グルコースによる糖定常説(脳の摂食中枢には血糖値の変動により作動するグルコース受容ニューロンとグルコース感受性ニューロンが存在することが細胞レベルで実証されている),脂肪による脂肪定常説(1994年のレプチンの発見により物質的にも証明づけられている),末梢から脳への迷走神経求心路を介する神経性調節,摂食調節物質,特に新規ペプチドの発見,ならびに脳における恒常的摂食調節と快楽的摂食調節などの解析が進んできた.恒常的摂食は,末梢臓器と脳を結ぶ代謝調節を示し,内分泌系が関与している.快楽的摂食には視覚味覚などの外的刺激や記憶などにより作動する脳内の報酬,動機付け,快楽系などが関与している.脳では視床下部,大脳辺縁系,報酬系,脳幹部が摂食調節に重要である. 視床下部には消化管,肝臓,脂肪組織などからの情報が液性または神経性に伝達されるとともに,大脳辺縁系などの上位中枢からの情報も入力され,統合されて最終的に食べるか,食べるのを止めるかが決定される.大脳辺縁系は脳梁の周囲にあり,帯状回,扁桃体海馬などを含み,生命の大原則にとって好ましいか,好ましくないかを判断し,摂食行動にも関係する.孤束核は,延髄の中央部から上部背側部に存在し,迷走神経に含まれる消化器からの情報,および顔面舌咽神経に含まれる味覚線維の終止核である.食事に伴う胃の機械受容器を介する進展刺激,食物やその代謝産物が刺激となり消化管から分泌されるペプチド情報,肝臓のグルコースセンサーで検出される代謝情報などは迷走神経求心線維を介して延髄孤束核へ伝達される.そこで神経線維を代えて視床下部,さらには大脳皮質などに情報が伝達され,ほかの情報とともに統合処理される.消化管からは多種類のホルモンが分泌されており,摂食や消化管の運動および分泌機能などを調節し,体重制御にも深くかかわっている.消化管ホルモンの多くは中枢や末梢神経系にも広く分布し,多彩な作用を示すことから,脳・腸ホルモンともよばれる.[中里雅光]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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