仏教で、大乗の経典をさす。方広ともいう。原語はサンスクリット語でバイプルヤvaipulyaである。本来、「広い」とか「大きい」とかの意味をもつにすぎないが、大乗では非常に重要な意味をもつように喧伝(けんでん)されている。それは方等が、仏所説や如来(にょらい)所説の十二部経(じゅうにぶきょう)の一とせられ、後世に製作された大乗経典が、十二部経の方等にあたり、したがって大乗経典は仏説であると主張されたためであろう。すなわち、パーリ語の九分(くぶん)教ベーダッラvedalla(教理問答)のかわりに、サンスクリット語の十二分教ではバイプルヤvaipulya(方等)と置き換え、このバイプルヤがすなわち大乗の経典をさすとする。後世発達した経典の権威づけのために、九分十二分教の転釈が行われたとみられる。
[前田惠學]