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最適通貨圏 さいてきつうかけん optimum currency area

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知恵蔵2015の解説

最適通貨圏

R.マンデル(1999年度ノーベル経済学賞受賞)は、「同一通貨を使用する地域がどのような条件を満たせば最適な規模になるか」を明示した。この最適通貨圏の議論が、欧州の通貨統合の将来を判定するのに使えるというので注目を集めた。同一通貨の流通する範囲は広ければ広いほど、両替費用や為替リスクがなくなるので経済的には便利である。しかし他方で、通貨主権を失うと、独自の為替政策や金融政策を行使する余地がなくなるという短所がある。マンデルは、石油危機のような外的ショックが発生してもその影響が一様に表れること、もしくは、特定の製品価格が値崩れするといった地域的に偏った外的ショックが生じても、労働力の移動が円滑に進むことを、単一通貨圏としてふさわしい条件とした。また、スタンフォード大学教授のマッキノンは、これらの条件の他に、対外依存度が大きく、経済規模が小さい諸国は、独自の為替政策の効果が限定されるので、通貨統合を進めた方が有利になることを指摘した。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵2015」
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

最適通貨圏
さいてきつうかけん
optimum currency area

個々の通貨をもつよりも、単一の通貨による単一の金融政策で経済運営を行ったほうが、デメリットよりメリットの大きい経済圏のことをいう。あるいは、為替(かわせ)相場による調整が不可能ななかで、単一の金融政策で適切な経済運営が可能な経済圏のことといってもよい。
 単一通貨導入のメリットは、為替リスクの解消、外国為替取引に伴うマージンの消滅、共通価格表示による価格の透明性、通貨統合とともに市場統合が進展し、規模の経済や競争の激化による経済の効率化が進展すること、国際通貨としての地位が向上することなどが指摘できる。
 反面、単一通貨が導入された地域では、各国間の不均衡を為替相場によって調整できなくなること、さらに単一の金融政策しか講じることができず、もし各国間に決定的な経済格差(景気のずれによる失業やインフレ格差)が生じた場合は、その経済圏が崩壊する危険性をはらむことになる。そこで、そのようなことがおこらないような最適経済圏の条件が、コロンビア大学のロバート・マンデル(1932― )やスタンフォード大学のロナルド・マッキノン(1935― )といった研究者によって提示されてきた。主なものは、次のように整理できる。
(1)非対称的ショックが生じないような同質的、類似的経済であること
 まず第一は、各国において、異なった経済的ショックが生じないことが重要である。共通通貨圏の国において、種々の経済的なショックが発生しても、各国での景気動向などに格差がおこらなければ、同一の金融政策で対処可能である。しかし、たとえば何らかの理由で原油価格の高騰がおこった場合、メンバー国に産油国と非産油国があれば、相互の経済動向に格差が生じてしまうであろう。このようなショックを「供給ショック」というが、それのみではなく、突然特定商品に対する需要ブームがおこり、「需要ショック」が加わることも考えられる。
 こうした経済的なショックがおこっても、メンバー国の経済がきわめて同質性、類似性を有しているならば、大きな経済格差が発生することはなく、単一的な金融政策で十分対処できるため、最適通貨圏としての条件を備えているといえる。
(2)貿易面で経済が十分開放されていること
 経済が十分同質的、類似的でないため非対称的ショックが発生したとしても、各国間において、市場メカニズムを通じて自動的に均衡を回復する力が作用するならば、最適通貨圏の条件が満たされているといってよい。
 いま、非対称的なショックが需要面で発生し、ある国の生産物から他国の生産物へと需要がシフトした場合、もし財市場の価格メカニズムが正常に作用し、需要が増大した国の財価格が上昇、減少した国の財価格が下落するならば、為替相場は消滅していても価格競争力が変化するため、貿易を通じて均一化が図れる。このため、マッキノンは貿易面で、その経済圏が十分開放されており、貿易取引を通じて経済動向の均一化が図れることを重視した。
(3)労働力移動が十分であること
 市場メカニズムによる均衡回復要因として、労働力の移動を重視したのが、マンデルである。ある国で生産性向上、他方で生産性低下という非対称的な「供給ショック」が生じた場合には、生産性の向上した国の競争力が増し、低下した国の競争力は後退するため、貿易を通じて調整はできない。その際には、生産性が低下して景気が悪化している国から、生産性向上で景気が好転している国へ、生産要素の労働自体が移動することによって、均一化が図れるため、最適通貨圏の条件の一つとされている。
 しかし、現在単一通貨を導入しているユーロ域でさえ、言語の相違などから労働移動はきわめて限定的であるといわれている。その場合でも、もし労働市場が十分弾力的であれば、賃金の変化によって、各国間の失業率格差を緩和できるが、賃金の下方硬直性があることは明らかであり、労働市場の改革が必要とされている。
(4)財政を通じた資金の再配分が可能なこと
 市場メカニズムによる均衡回復機能を補完する条件として、その経済圏全体としてのレベルで、財政による資金移動がなされ、各国経済の均一化を図ることが可能であれば、最適通貨圏の条件は満たされる。各国間の経済格差を財政政策によって是正できる仕組みが備わっているならば、金融政策が一本化されていても、適切な経済運営を行いうるからである。
 以上の議論に基づいて、EUやアジアについて、最適通貨圏の条件を満たしているか否かの実証研究が多数なされている。EUについては、そもそも経済の同質化、一体化が進んでおり、非対称的ショックの発生危険性が少ないこと、均衡回復メカニズムが充実しつつあることなどから、最適通貨圏に近づきつつあるとの主張が多い。しかし、東方拡大が進展しつつあるなかで、その維持可能性を懸念する声もある。アジアについては、実証分析では「アジアの一部地域は、少なくとも通貨統合前のヨーロッパと同程度には最適通貨圏の条件を満たしているようにみえる」との結果が多いが、短期的な景気のずれや長期的な発展段階の違い、経済・貿易構造の違いが大きく、分析結果を疑問視する声も少なくない。[中條誠一]

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) この辞書の凡例を見る
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世界大百科事典内の最適通貨圏の言及

【通貨同盟】より

…通貨同盟は一方では各国の経済主権を制限し,この意味では一定の犠牲を強制するものであるから,その代償としての同盟から得られる利益が十分大きくなければ同盟は成立しにくい。 最適通貨圏optimum currency areaの理論を唱えたマンデルRobert Alexander Mundell(1932‐ )によれば,相互依存度が高く,資本や労働や商品の国際移動がすでに活発である国々,すなわち経済的に似通っていて,かつ近接した工業国のグループは,通貨圏あるいは通貨同盟から大きな利益を受ける。したがって成功する可能性も大きい。…

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