有効原子番号(読み)ゆうこうげんしばんごう(英語表記)effective atomic number

日本大百科全書(ニッポニカ) 「有効原子番号」の意味・わかりやすい解説

有効原子番号
ゆうこうげんしばんごう
effective atomic number

化合物中で、一つの原子に注目したとき、その原子に所属する電子の数を、その原子の有効原子番号という。たとえばメタンCH4中では、Cはもともとの電子数6にHとの共有結合によってさらに4電子が加わるので、その所属する電子数は10、すなわち有効原子番号は10であり、HはCとの共有結合に使われる電子対のみが所属するので電子数2、すなわち有効原子番号は2である。第3周期元素の化合物たとえば三塩化リンPCl3では、Pは15+3=18、Clは17+1=18で、有効原子番号は18であり、第4周期元素の化合物たとえばK4[Fe(CN)6],[Co(NH3)6]Cl3では、配位子から2電子ずつ供与されるのであるから、Feは26-2+12=36、Coは27-3+12=36であって、いずれも有効原子番号は36である。これらの有効原子番号は、いずれもその元素の周期の希ガス元素の原子番号と一致している。1923年イギリスのN・V・シジウィックは、遷移金属錯体配位数を系統化するためにこの有効原子番号の概念を導入し、有効原子番号が希ガスの原子番号と一致するとき安定な錯体をつくるという、いわゆる有効原子番号則(EAN則ということもある)を発表している。

[中原勝儼]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有効原子番号」の意味・わかりやすい解説

有効原子番号
ゆうこうげんしばんごう
effective atomic number

EAN と略記することがある。化学結合をしている原子核のまわりの電子数をいう。金属イオンに配位子が配位して錯体が形成される場合,中心金属イオンの核外電子数と配位子からの供与電子対の電子数の和を,その錯体の有効原子番号という。 1923年 N.シジウィックにより提唱された概念で,化合物中のすべての原子の有効原子番号は希ガスと同じ原子番号をとるとした。たとえばメタンの炭素原子のまわりの電子数は 10,水素原子の電子数は2で,それぞれネオンとヘリウムの原子番号にあたる。これは錯体における金属イオンに関する配位数を系統化するのに便利である。たとえば,コバルトのヘキサアンミン錯イオン [Co(NH3)6]3+ において,コバルトは原子番号 27であるから,コバルトイオンは電子数 24である。また,6つの配位子 NH3 からの供与電子対は2×6=12で,有効原子番号は 24+12=36となり,クリプトンの原子番号に等しくなる。

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化学辞典 第2版 「有効原子番号」の解説

有効原子番号
ユウコウゲンシバンゴウ
effective atomic number

化学結合をつくった状態にある原子の電子状態を表すために,N.V. Sidgwickが提唱した概念で,分子内のある注目する原子をとりまく電子の数をいう.たとえば,CH4中のC,HClの中のCl,Ni(CO)4中のNiの有効原子番号はそれぞれ8,18,36である.Sidgwickは,分子内のすべての原子の有効原子番号が希ガスの原子番号に等しいとき,その分子は安定であるとしたが,この規則はつねに成り立つわけではない.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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