日本大百科全書(ニッポニカ) 「服属アーキテクチャー」の意味・わかりやすい解説
服属アーキテクチャー
ふくぞくあーきてくちゃー
subsumption architecture
ロボット研究者のブルックスRodney Allen Brooks(1954― )が提唱したロボット用アーキテクチャー。一時期「包摂アーキテクチャー」と訳されていたが、これは論理学のsubsumption(包摂)との混同であり、正しくない(論理的包摂を意味しないことはブルックス本人が明言している)。
それ以前は認識→推論→行動というように直列(水平)の情報処理モデルであったものを、さまざまなレベルの処理を同時並行的(垂直)に進めるモデルへと変更し、上位レベルが下位のレベルに介入する(上位が下位をsubsumeする=服属させる)ことで制御するようにしたもの。たとえば、ロボットの最下位レベルとして赤外線センサーなどを用いて障害物にぶつからないで自由に歩き回る機能をもたせる。そのうえで上位の層が方向性を指示したりすることでタスクを遂行する。この最下位の層だけを実現したのがブルックスが創設したアイロボット社iRobotの最初の製品、ロボット掃除機の「ルンバ」である。
ブルックスはこのアーキテクチャーの提案時に"Intelligence without Representation"(邦訳は『表象なしの知能』。これはアメリカ独立戦争のスローガン"No tax without Representation"「代表なくして課税なし」のもじり)という論文を発表し、従来の知識表現偏重を批判した。しかしながら、高度な推論機能をもつロボットはいまだに実現されておらず、昆虫の知能レベルのアーキテクチャーであるという批判もある。
[中島秀之 2019年9月17日]