日本大百科全書(ニッポニカ) 「李娃伝」の意味・わかりやすい解説
李娃伝
りあでん
中国、唐の伝奇小説。白行簡(はくこうかん)(776―826)作。科挙の受験生である主人公は、試験を受けに行く途中、芸妓(げいぎ)の李娃に一目ぼれし、持ち金をすっかりだまし取られるような目に会いながらも、李娃をあきらめることができず、死にかかったり乞食(こじき)に身を落としたりの苦労を重ねながら、逐電してしまった李娃一家を追い続け、ついに自由の身になった李娃と結ばれる。その後は彼女の献身的な努力により、試験に合格し栄達したという物語。作者白行簡は白居易(はくきょい)のすぐ下の弟で、司門員外郎(しもんうんがいろう)、主客郎中などを務めた。当時は、牛僧孺(ぎゅうそうじゅ)・李徳裕(りとくゆう)の争いのような政争の熾烈(しれつ)な時代であったところから、これは、白行簡が政敵の夫人の出身を暴き、政敵をおとしめるためにつくった小説だとする説もある。
[高橋 稔]
『高橋稔・西岡晴彦訳『中国の古典32 六朝・唐小説集』(1982・学習研究社)』