改訂新版 世界大百科事典 「極北美術」の意味・わかりやすい解説
極北美術 (きょくほくびじゅつ)
Arctic art
スカンジナビア,フィンランド,北ロシアに広く分布する,中石器時代の岩面画の総称。1848年に北ロシアのオネガ湖畔で発見されたのが最初で,その後1880年に北スウェーデンで,20世紀に入ってからノルウェー各地で続々と発見された。これらは,前6千年紀から前2千年紀中ごろにかけて狩猟・漁労民によって刻まれた北部グループ(北部・中部ノルウェー,フィンランド,北ロシア,シベリア)と,前2千年紀から紀元前後にかけてすでに青銅器を所有していた農耕・牧畜民の制作にかかる南部グループ(スウェーデン)に分けられる。したがって厳密には,極北美術とは北部グループに限定される。
北部グループの大部分は刻画で,自然主義的様式を見せる。主題は動物,人物,図形など。動物像はトナカイ,オオジカ,鹿,鯨,アザラシ,サケ,水鳥,爬虫類で,家畜化された動物の刻出はない。動物像には,いわゆるX線描法も見られる。人物像は数が少なく,また図式化されているが,皮製の舟に乗ったり,スキーをつけたり,呪術師らしい表現などがある。抽象的図形には,方形,ひし形,楕円形,屈曲文などがあり,その一部は陥穽または柵と考えられているが,推測にとどまる。表現技法としては,1本の線で輪郭を刻む一線彫と,敲打法または切込みの連続による刻画とがある。これら北部グループの岩面画は,前2千年紀中ごろ以降南部グループの非常に様式化した岩面画にひきつがれる。
執筆者:木村 重信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報