翻訳|magician
呪術ないし「まじない」を行う者のことで、呪師ともいい、民間治療、病気の診断・治療を中心的な職能としている場合は呪医medicine-manともいわれる。また卜占(ぼくせん)ないし占いを中心とする者は占い師、卜占師といわれるが、呪術的な病気治療を行う呪医が、まず占いを行い、あるいは、占いをする前に呪文を唱える呪師もよくみられ、呪術と占いは結合していることが少なくない。さらに、神がかりになる呪術師も伝統社会、未開社会にはしばしば存在し、これはシャーマンともいわれる。
呪術師が主として個人や家族を対象としているのに対し、社会全体の祭儀、儀礼、祭りを行う宗教的職能者は普通「祭司」priestといわれる。未開社会、伝統社会では、呪術師と祭司の役を同一人物が行うこともよくみられる。北アメリカの平原インディアンには、呪医ないしシャーマンと、儀礼を執り行う祭司が別個に存在していた。エスキモーやオーストラリア先住民、ニューギニアの諸民族集団、ポリネシアのティコピア島民においては同じ人物が呪術師でもあり、祭司でもある。メキシコ南部チアパス高地のインディオのシナカンタンにおいても、呪医は、同時に村の雨乞(あまご)いの儀礼など公共の儀礼を行う祭司でもある。
また、呪術師の職能が分化していることもある。たとえばメラネシアでは、天候を支配する呪術師、病気を治す呪術師は別人である。ジャワでも呪術師ドゥクンdukunには、呪医、産婆、指圧師、霊媒ないしシャーマン、占い師などがあり、呪術師の職能が分化している。それぞれの専門のドゥクンがいるとともに、1人のドゥクンがいくつかの職能を兼ねることもある。なおジャワにおけるドゥクンの観念は、われわれのいう呪術師の観念より広く、産婆や指圧師までが含まれている。このように呪術師に関する観念自体かなり社会によって異なるのである。
文化の発達した社会、高文明の社会では祭司の役割が支配的であり、祭司が公共の祭儀をつかさどり、元来文字をもたなかった社会では、呪術師の役割が顕著であると大まかにはいえるが、工業の発達した日本にも祈祷(きとう)師や占い師、易者、巫女(みこ)などはいるし、アフリカ、南スーダンの牧畜民ヌエルのように政治的機構をもたない社会でも祭司が主要な役割を演じていることもあり、一概に割り切ることは困難である。
呪術師のもっているとされる呪力は、人を病気その他の災いに陥れるためにも作用すると考えられる場合が多い。ジャワのドゥクンも人を呪(のろ)い殺したり、病気にさせる呪術(邪術ともいう)も行うといわれ恐れられている。インドネシアのバリ島の呪医も邪術を行うといわれている。メキシコ南部のインディオ、シナカンタンやチャムラの社会においても、呪医は病気を治すことができるとともに、人を病気にさせる邪術も行うことができると信じられている。
呪術師はときにはトリックを用いる。たとえば邪術などのために体内に打ち込まれたとされる異物(針、石、ガラスなど)を口で患者の体内から吸い出したり、手でつかみ出したりする。これは呪術師の器用なトリックによるものである。こういう呪術師のトリックは、これを見守る人たちにはわからない。そこには呪術師に対する信頼と、その呪力に対する信仰があるからである。
[吉田禎吾]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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