岩面画(読み)がんめんが(英語表記)rock art

改訂新版 世界大百科事典 「岩面画」の意味・わかりやすい解説

岩面画 (がんめんが)
rock art

洞窟や岩陰の壁ないし天井や,独立した岩石の表面に施された彩画,刻画,浮彫で,それらを制作するために岩面が整えられていないもの。岩壁画,岩壁絵画ともいう。旧石器時代から新石器時代にかけて制作され,一部は歴史時代に属する。彩画の顔料は天然のもので,黄・赤・褐色が鉄酸化物から,黒色がマンガン酸化物と木炭から,白色が石灰石,貝殻卵殻,鳥糞から得られた。青系統はなく,緑色はインドの最終段階の岩面画にのみ見られる。刻画は,石器または金属器で彫られた。また,岩面画は施される場所によって,洞窟美術と岩陰美術rock shelter artに区別される。洞窟美術は主として旧石器時代に,岩陰美術は中石器時代以後に多い。岩面画の代表的なものには,フランスからスペインにかけて分布するフランコ・カンタブリア美術(後期旧石器時代),スカンジナビアシベリア極北美術(中石器時代),スペイン東部のレバント美術タッシリ・ナジェールなどサハラ地域の山岳丘陵に遺存するもの,南部アフリカのサンの美術,オーストラリアのアボリジニーの美術,中部インド山岳地帯に残るものなどがある。さらに,中国(甘粛省嘉峪関),韓国(慶尚南道など),アメリカ合衆国ネバダ州カリフォルニア州),チリボリビアペルートケパラ洞穴)でも見いだされる。主題は,狩猟漁労,牧畜の場面が多く,ときに抽象的図形や文字(サハラ)も表される。いずれも狩猟民または遊牧民の手になるもので,農耕民の制作した岩面画はきわめてまれである(そのまれな例は西アフリカのドゴン族)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の岩面画の言及

【アフリカ】より

…時代的には約1万年前から現在にまで及び,地理的にも砂漠,ステップ,サバンナ,森林,海岸地帯と多様な環境の中で営まれたものであり,美術表現はそれら時代,風土のちがいによって千差万別である。おもなものには,サハラおよび南部アフリカ(サン)の岩面画,クシュ王国の美術,ナイジェリアの彫刻,ジンバブウェ美術,それに彫刻を主とする近代の美術がある。 サハラ砂漠の山岳地帯には,中石器時代から11~12世紀にアラブの侵入を迎えるまで約1万年にわたって描き続けられた岩面彩画・刻画が広く分布する。…

【極北美術】より

…スカンジナビア,フィンランド,北ロシアに広く分布する,中石器時代の岩面画の総称。1848年に北ロシアのオネガ湖畔で発見されたのが最初で,その後1880年に北スウェーデンで,20世紀に入ってからノルウェー各地で続々と発見された。…

【サハラ砂漠】より

…このため,各国は地下資源の開発を基礎とした国づくりを考え,地下資源の探査に力を入れている。【藤井 宏志】
[乾燥化以前のサハラ]
 サハラがまだ湿潤で草食獣が生息できたころのようすは,タッシリ・ナジェール,アハガル山地,エネディなど,サハラ各地に残る岩面画によってうかがうことができる。ゾウやキリンの絵,カモシカなどを弓矢で追う狩人,仮面をかぶって踊る人,ウマやウシに引かせた二輪車に乗る人,大きな角のウシを追う牧人等々が描かれている。…

【サン】より

…父の兄弟は父,母の姉妹は母と呼ばれる類別的な親族呼称をもち,性と世代によって二分される親族の体系をもつが,出自集団を形成することはない。 サンが描いてきたといわれる岩面画が多数残されているが,それらから類推するかぎりでは,かなり高度な宗教的・芸術的活動があったことがうかがわれる。しかし現在は,天上の創造神と,病気,災害,死の原因となる悪霊の存在を信ずるが,体系だった宗教はもたず,きわめて現実主義的な生活態度を示す。…

【先史美術】より

…これらは,その内容から次の3種に大別することができる。(1)洞窟美術と呼ばれる,洞窟内部の岩壁に描かれ刻まれた彩画や刻画(岩面画)。(2)岩陰美術と呼ばれる,日光のさしこむ岩陰の岩壁に彫られた浮彫。…

【タッシリ・ナジェール】より

…トゥアレグ語で〈水流の多い台地〉の意。現在は完全に乾ききった険しい山塊で,数万点の先史時代の岩面画が遺存する。おもな遺跡はセファールSefar,タン・ズマイタクTan Zoumaïtak,ティン・アボテカTin Abotéka,タムリットTamrit,ウエッド・ジェラートOued Djérat,ジャバレンJabbaren,イン・アウアンラートIn Aouanrhatなどである。…

※「岩面画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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