日本大百科全書(ニッポニカ) 「極地動物」の意味・わかりやすい解説
極地動物
きょくちどうぶつ
南極、北極のいずれかの地域に生息する動物。南極の海域では太陽の光を利用して珪藻(けいそう)などの植物プランクトンが繁殖する。それにつれて、植物プランクトンを食うナンキョクオキアミを主としたオキアミ類、橈脚(とうきゃく)類、サルパ類などの動物プランクトンが増える。オキアミ類は、カニクイアザラシを主としたアザラシ類、ミンククジラ(コイワシクジラ)を主としたヒゲクジラ類はじめ多くの動物の餌(えさ)となる。ヒョウアザラシやシャチなどはペンギン、アザラシ、ヒゲクジラを捕食する。南極海域には魚類はもちろん多くの種類の無脊椎(むせきつい)動物が生息し、生物量も大きく、食物網もこれまでに考えられていたほど単純ではない。北極海域の生態系も、動物の種類組成こそ南極海域とは異なるが、構成種相互の関係はよく似ている。南北両極海域にすむ動物は、アザラシ、クジラのように厚い脂肪層を皮下に、ある種の魚のように不凍剤を血液中にもつとか、無脊椎動物の多くにみられるように、少数の大きな卵を産み、場合によっては哺育(ほいく)習性をもつなどして、寒冷な環境下で長期にわたる餌の植物プランクトンを欠く低照度の環境に適応している。
陸の生態系は、海と違って、北極と南極とで大きく異なる。北極のツンドラ帯の植物の種類と量は、南極に比べてかなり多い。動物では、昆虫類、ダニ類、クモ類の小形動物だけでなく、これらの小動物を捕食する鳥類、ジャコウウシ、カリブー(トナカイ)、レミングなどの草食性哺乳類が生息する。これに伴って、シロフクロウ、ホッキョクギツネ、ホッキョクオオカミなど肉食性の動物が出現する。
これに対して南極の露岩地帯では、トビムシ類、ダニ類、クマムシ類、線虫類などの小形動物が、砂礫(されき)地やコケ、地衣などの群落中に生息するだけである。また、南極大陸はほかの大陸から隔たっているので、移動してくる哺乳類はゾウアザラシのような海産哺乳類に限られる。夏季に陸上で営巣するアデリーペンギンのほか、ミナミオオトウゾクカモメ、ユキドリなどの海鳥も、食物はナンキョクオキアミなど海の生物である。ほとんどの海鳥は冬になると北方の海域へ移動するが、コウテイペンギンだけは大陸周縁に残り、冬季、海氷上で雛(ひな)を育てる。皮下に厚い脂肪層をもつばかりでなく、集団をつくって熱の発散を防ぐ。北極のジャコウウシも、厚い毛皮をもつとともに、集団をつくって寒さに耐える。
[星合孝男]