シャチ(読み)しゃち(英語表記)killer whale

翻訳|killer whale

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャチ」の意味・わかりやすい解説

シャチ
しゃち / 鯱
killer whale
[学] Orcinus orca

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目マイルカ科のハクジラ。別名サカマタ、タカマツ。世界の海洋に分布し、日本近海にも回遊する。ごくまれに東京湾、瀬戸内海などの内湾にも入り込むことがある。雄は体長10メートルに達し、雌は8メートルほどである。体色は背中側が黒色、腹側が白色で、その境界ははっきりしていて、体側には腹部から背中側に向かう白い波形模様と目の上に長円形の白斑(はくはん)がある。頭は丸く、くちばしはない。成長した雄の背びれは体長の3分の1ぐらいの高さになる。胸びれは大きく団扇(うちわ)状で、上下のあごには長さ10センチメートルほどの歯が左右各列10~13本ある。

 イカ、魚類だけでなく海鳥、イルカ、アザラシ、クジラまで襲って食べるが、人間を襲った確実な報告はない。水族館で飼育すると人にもよくなれ、多くの芸を覚え、同じプール内のイルカを襲うことはない。水族館での飼育は1964年、カナダのバンクーバー水族館が最初である。

[鳥羽山照夫]

民俗

海獣狩猟を生業の一部としている北太平洋の民族の間では、シャチは海の王者として崇敬されている。北海道や樺太(からふと)(サハリン)のアイヌは、山の幸の神であるクマとともに海の幸の神として崇(あが)め、「レブンカムイ」(沖の神)とよぶ。また、シャチには銛(もり)を打ってはならないという。シャチは、クジラを追って殺したり、海岸に追い上げたりして住民に多くの富をもたらす神とされ、海へ出るときに豊漁を祈願するのもシャチの神で、この神は兄弟2人の神であるとも伝える。樺太のニブヒギリヤーク)人もクマとともに崇拝し、「主(ぬし)」とよぶ。海の支配者の意である。そのため、海上でみつけても捕獲せず、木幣をつくって海に投じ、食物を供える。海辺へ屍体(したい)が漂着すると、周囲に木幣を立てて布で覆い、食物を供えて祀(まつ)る。肉は食べない。北アメリカの北西岸先住民の諸部族でも神聖視しており、たとえばクワキウトルでは、シャチをみつけると獣脂などを海の中に投じ、食物を与えてくれるようにと祈った。北西岸先住民の間では、シャチはトーテム獣としてトーテムポールに刻まれているほか、図案化されたその姿がさまざまな器物に描かれている。

 日本では、城の天守閣の棟の両端にそびえる鯱鉾(しゃちほこ)で親しまれている。波をおこし、雨をよぶ海獣として、火難除(よ)けの呪(まじな)いの意味が込められている。

[小島瓔


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シャチ」の意味・わかりやすい解説

シャチ
Orcinus orca; killer whale

クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属。サカマタとも呼ばれる。雄は体長約 9.8m,体重約 10t,雌は体長約 8.5m,体重約 7.5tに達する。出生時は体長 2.1~2.8m,体重約 180kg。背部および体側の大半は黒色,下顎,腹部,尾鰭 (おびれ) の下面は白色である。眼の後方に楕円形の白斑があるほか,臍 (へそ) の辺りから体側の背鰭後方に向い白色帯が伸びる。黒と白の対比がきわめて明瞭。また背鰭後部に白色またはねずみ色の鞍 (くら) 状の斑がある。体型は紡錘形で体の中央が最も太い。噴気孔は1個で頭部正中線上にある。嘴 (くちばし) はなく,吻端は口唇のように突出する。背鰭は体のほぼ中央に位置する。性的成熟に達した雄の背鰭は長大で,高さは体長の4分の1以上に達し,前縁はやや後方へ湾曲している。雌の背鰭の高さは体長の8分の1程度で,前縁はより後方へ湾曲し後縁は鎌状である。新生仔の背鰭は直角三角形状を呈する。胸鰭はきわめて大きく長円形で先は丸い。尾柄部は細いが,尾鰭は非常に大きく,左右幅は体長の4分の1に達する。上下顎骨には大きな円錐歯が左右 10~12対あり,餌を噛み,引裂くことができる。母親を中心とした家族群で行動し,なかでも母と娘の絆 (きずな) が強く,死別あるいは群れが大きくなりすぎないかぎり,群れの離散はない。雄は性的成熟に達する前に群れを離れる。出産期は太平洋北西部では 10月~3月,大西洋北東部では晩秋から冬にかけてである。シロナガスクジラからラッコまでさまざまな海生哺乳類を捕食する。また多種にわたる魚類やイカ類,タコ類のほか,海鳥や海亀も食べる。全世界の海洋に広く分布する。

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