内科学 第10版 「横断性脊髄炎」の解説
横断性脊髄炎(急性散在性脳脊髄炎)
概念
横断性脊髄炎は急性に経過する髄節レベルをもった脊髄障害である.横断性とは,必ずしも対称的ではないが両側性の感覚・運動障害の髄節レベルがあることから用いられている.また,病変はしばしば長軸方向への広がりをもつ.近年,視神経脊髄炎(NMO)の概念が確立され横断性脊髄炎の重要な原因疾患として注目されている.
病因・疫学
広義には感染性,血管性,腫瘍性,外傷性のものを含むが,ここでは特発性を含む非感染性炎症性のものをとりあげる.したがっておもな病因は,多発性硬化症,傍感染性脊髄炎,NMO,自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス,Sjögren症候群,混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)など)に伴う脊髄炎があがる.また数年の経過をみても原因が特定されない特発性のものが15~36%ある.
臨床症状
症候は必ずしも対称性ではなくときに半側性もあるが,病巣レベル以下の両側性筋力低下と全感覚の障害がある.頸髄レベルの病巣であれば上下肢の筋力低下,感覚低下とともに痛み,しびれがよく出現し,しばしば帯状締め付け感,背部痛,根痛もみられる.自律神経障害,膀胱直腸障害なども起こる.症状発現からピークまでは数時間から数週間である.
検査成績・診断・鑑別診断
経過やMRI画像から髄内血管障害,髄外からの圧迫性病変を除外する.髄液の細胞数増加,髄液蛋白,IgG インデックスの上昇など炎症所見を得る.さらに視力障害の既往の有無,頭部MRIによりNMOや多発性硬化症の可能性を検討する.McDonaldらの基準を満たせばclinically isolated syndrome(CIS)と見なされる.脊髄病変が3椎体以上の長さの場合はNMOの可能性があり,抗アクアポリン4抗体が陽性のことが多い.NMOは多発性硬化症より再発率が著しく高い.不完全な横断性障害は完全なものより多発性硬化症の可能性が高い.特発性の診断には血管性(脊髄梗塞,脊髄動静脈瘻など),感染性(HSV-2,VZV,EBV,Mycoplasma pneumoniae,HTLV-1,HIVなど),腫瘍性(リンパ腫,転移性脊髄腫瘍),その他(放射線障害,傍腫瘍性)を除外する必要がある.
治療・予後
急性期にはステロイドのパルス療法を行い,原因疾患によっては後療法を加える.反応が乏しければ,あるいは抗アクアポリン4抗体が陽性の場合は血漿交換を行う.初診時ヘルペスウイルスやマイコプラスマ感染が否定できない場合はそれぞれアシクロビル,マクロライド系抗菌薬を併用する.慢性期にはリハビリテーションが主体である.再発抑制には,抗アクアポリン4抗体が陽性の場合はステロイドの少量維持,アザチオプリンの併用,多発性硬化症の場合はインターフェロンβやフィンゴリモドの投与を行う.[犬塚 貴]
■文献
松井 真:横断性脊髄炎.Clinical Neuroscience, 28: 108-109, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報