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江戸っ子1号 えどっこいちごう

知恵蔵の解説

江戸っ子1号

江戸っ子1号」は、東京下町の町工場などが共同開発した無人深海探査機。2013年11月、日本海溝の水深約7800メートル付近で、ヨミノアシロとみられる深海魚などを3Dハイビジョンカメラで撮影することに世界で初めて成功した。09年に東大阪の中小企業が人工衛星「まいど1号」の打ち上げに成功したことに刺激を受け、(株)杉野ゴム化学工業所社長が江戸っ子の心意気を表そうと、深海へのチャレンジを発案し、命名した。正式名称は深海シャトルビークル「江戸っ子1号」で、深海シャトルビークルとは、スペースシャトルが地球と宇宙の間を往復するように、将来的には深海を往還して様々な探査装置や測定器を運ぶ役割を想定した命名である。
「江戸っ子1号」プロジェクト推進委員会は、11年に発足。都内と千葉県の中小企業5社と、二つの大学及び独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が、地元信用金庫の資金的支援を受けて連携し、水深8000メートル以上の日本海溝の探査を目標に、安価で操作しやすい探査ロボットの開発を行う。不況の中、後継者や技術伝承者がなく廃業が増える東京下町の地場産業の活性化を図り、町工場が技術を結集して革新的な新技術を生み出そうとする趣旨が賛同を得て、産学官金連携体制が実現した。
水深6000メートルを超える超深海の調査・研究は、これまでJAMSTECなどが中心となって進めてきたが、探査機等の開発に100億円以上、運用には1回数千万円という費用がかかり、政府機関や学術機関の利用に限られてきた。江戸っ子1号は、開発総額約2000万円という低コストで実現し、1回の実験に必要なコストも数万円から数十万円とされる。
江戸っ子1号の基本構造は、800気圧に耐える真円のガラス球を複数つなぎ合わせ、内部に3Dのビデオカメラや照明器具、通信機器などの装置を組み込んでいる。ガラス球同士の通信には、海水中でも電波を通すことのできる特殊なゴム製の器具を用いている。潜水時は錘をつけて自由落下し、浮上時は支援船から音波で送った信号を電気信号に変えて錘を切り離し、ガラス球が受ける浮力で浮かび上がる。高圧に耐える強度を持ちながら、内部のカメラで歪みのない映像を撮影できるガラス球の制作など、随所に町工場の高い技術が使われている。
江戸っ子1号は3台あり、11月21日から23日にかけて、千葉県房総半島沖約200キロメートルで、それぞれ水深4090メートル、7860メートル、7816メートルの海底に投下され、3台とも24日に浮上・回収に成功した。

(葛西奈津子  フリーランスライター / 2013年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵miniの解説

江戸っ子1号

無人海底探査機。東京都や千葉県の中小企業5社が、独立行政法人・海洋研究開発機構、芝浦工業大学東京海洋大学などの支援を受け、2009年より開発を行っている。水深8000メートルの水圧に耐える強度のガラス球を組み合わせた小型の探査機で、海底に到達すると動画撮影や、土や微生物などのサンプル採取を自動的に開始。調査後は海面に浮上し、GPSで測定した現在地衛星通信で回収船に知らせる。13年に千葉県房総半島沖で探査試験を実施し、日本海溝の深海約8000メートルに生息する生物の採取や動画撮影に成功。将来的には、世界の海洋研究者への販売や、大型探査艇のデータ搬送機としての実用化が想定されている。

(2013-11-26)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

江戸っ子1号
えどっこいちごう
Edokko 1

東京下町の中小企業などが共同開発したフリーフォール(自由落下)型の無人深海探査機。海面から深海底まで沈降し、深海探査や資源採取などにあたる。杉野ゴム化学工業所(東京都葛飾(かつしか)区)の社長杉野行雄(ゆきお)(1949― )が2009年(平成21)に発案。東大阪市の中小企業が打上げに成功した人工衛星「まいど1号」に触発され、東京周辺の町工場の技術を結集して不況に打ち勝つ革新的技術を生み出そうと、江戸っ子の心意気を表す意味で、江戸っ子1号と命名した。杉野ゴム化学工業所、浜野製作所(東京都墨田(すみだ)区)、バキュームモールド工業(東京都墨田区)、パール技研(千葉県船橋(ふなばし)市)、ツクモ電子工業(東京都大田(おおた)区)、岡本硝子(ガラス)(千葉県柏(かしわ)市)の中小企業6社、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC(ジャムステック))、東京海洋大学と芝浦(しばうら)工業大学の2大学、地元の東京東信用金庫(東京都墨田区)が連携し、2011年から開発プロジェクトが始まった。2013年には水深約8000メートルの日本海溝で深海魚や海底などの動画撮影に世界で初めて成功。2015年からは岡本硝子を中心に事業化へ移行し、海洋研究開発機構に探査機を4機納入した。マリアナ海溝の世界最深部や熱水鉱床など腐食性の高い深海域での探査を目ざしている。
 当初の計画では、海底1万1000メートルの潜水能力をもち、海底をタイヤで移動する探査ロボットの開発を目ざした。しかし予算的制約から海中落下・浮上回収型に転換した。江戸っ子1号の基本構造は800気圧に耐えられるガラス球を複数個(3~4個)つなぎ、ガラス球内に三次元ビデオカメラ、照明器具、通信機器などを搭載。おもりの重さで潜水し、深海での作業を終えると、おもりを切り離して浮上、海上回収する仕組みである。通常、深海探査には100億円以上の予算が必要とされるが、江戸っ子1号は開発額約2000万円、1回の探査費は数百万円ですみ、安価で簡単に深海での探査ができる特長をもつ。[矢野 武]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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