歌謡。平安中期から末期に流行した今様(いまよう)の分類の一つ。今様には,ほかに神歌(かみうた),只の今様,古柳(こやなぎ),旧古柳(ふるこやなぎ),片下(かたおろし),早歌(はやうた),田歌(たうた),娑羅林(しやらりん)などがあった。法文とは仏法を説いた文章の意で,法文歌はその名のとおり著しく仏教的であり,とくに法華経をよんだものが多い。叙事的なものもあるが,末法の世に仏に帰依する心情を,なだらかな表現で哀切に歌いあげたものが中心をなしている。自由に世俗的な内容を俗語もまじえて歌う神歌と対照をなす。今様の歌詞を伝える最大の書である《梁塵秘抄(りようじんひしよう)》の巻二は,法文歌と四句神歌,二句神歌を集めている。法文歌は和讃の系統を引くもので,7・5,8・6など,長句短句を4回くりかえす整然とした形式をとる。この形式は明治の新体詩にも影響を与えた。
執筆者:外村 南都子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
… 巻一は長歌(短歌体で〈そよ〉という囃子詞(はやしことば)を付けたもの)10首,古柳(こやなぎ)(不整形式で囃子詞の多いもの)1首,今様10首を収めるが,目録の歌数と違うのはこの現存の巻一が見本的な抄出本であることによるか。 巻二は法文(ほうもん)歌首,四句神歌(しくのかみうた)(神歌)204首,二句神歌121首を収める。法文歌はおおむね8・5音または7・5音の4句形式の仏教讃歌で,大きく仏・法・僧・雑の順に配列され,なかでも法(経典)の部は天台教学の五時教判の基準に従い,華厳経以下のおもな大乗仏典の各経歌をそろえ,特に法華経二十八品歌は開結2経を前後に置く群作百十数首で堂々たる構成である。…
※「法文歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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