日本大百科全書(ニッポニカ) 「流通経路」の意味・わかりやすい解説
流通経路
りゅうつうけいろ
生産から消費に至るまでに商品がたどる経路のこと。現代社会における商品の循環は、生産過程、流通過程そして消費過程の三つの過程によって構成されている。商品は、この流通過程を経て、生産者から消費者にわたり、最終的に消費される。生産者が消費者に直接販売するよりは、その間に流通過程を置いて流通業者の取引活動を介入させたほうが、一般に効率的なのである。各種商品はこの流通過程のなかで種々な流通業者に媒介され消費者まで流れていく、この流れの道筋を流通経路という。流通経路を国民経済的立場から仕組みとしてとらえるとき流通機構とよばれ、また個別生産者が流通経路になんらかの統制を加える場合に販売経路とよばれる。
[野村 宏]
多様な形態
流通経路は、商品の特性、業界の商慣習、生産者および流通業者の政策・規模、物流の距離などによって多様な形態をもつ。典型的な商品の流通経路には、供給者として生産者および輸入業者があり、消費者として個人消費者、産業用使用者および輸出がある。商品はこれらの間を上から下に流れるのであるが、その過程で2ないし3段階の卸売業者層、および小売業者の手を経るのが一般的である。生産者と消費者の間に卸売業者や小売業者などの流通業者が介在する理由は、流通業者がその専門技術を駆使し、多くの生産者の商品を集約的に取り扱うことによって、取引費用および物流費用を圧縮し、かつ商品の販売期間を短縮できるからである。その結果、生産者が直接販売するよりも、低コストで、かつ効率的な流通が可能となる。
流通業者には、直接消費者への販売を担当する小売業者と、生産者と小売業者との間を仲介する卸売業者がある。さらに、卸売業者には通常2ないし3階層のグループがあり、それぞれが分業関係をもっている。まず、生産者に直接対応する元卸業者、ついで、小売業者に販売する最終卸業者があり、さらにこれらの中間に中間卸業者が介在することが多い。それを機能面からみれば、元卸業者は多くの生産者から商品を集約する品ぞろえ機能を担当し、中間卸業者はそれを最終卸業者に中継する機能を担当し、最終卸業者は数多くの小売店へ分散させるという機能を担当している。個人消費者を対象とする日常消費財などの場合には、元卸業者は東京・大阪などの大都市に集中しており、中間卸業者は全国各地方の中核都市に立地し、さらに最終卸業者は各県の中心都市に分布していることが多い。したがって、商品の流通は流通業者間の分業関係のなかを縦に流れるだけでなく、大都市から地方、各県、そして各市町村へと地理的にも広く分散していくことになる。
しかし、すべての商品がこのような流通経路をたどるとは限らない。一部の商品では、たとえば通信販売のように生産者から直接に消費者に流通するし、各段階の卸売業者が直接消費者に販売することもある。また、工場用の原材料や機械設備などの消費者である産業用使用者は、その使用量や取引額が大きいので、小売業者からではなく、各段階の卸売業者から直接購入することが多い。ときには生産者から直接購入する場合もある。青果物のような生鮮食品にあっては、生産者である農家の数が多く、また、消費者が多数の個人であるために、特殊な流通経路をもっている。青果物はまず総合・専門農業協同組合、あるいは生産地集荷市場に集められ、次に消費地の中央市場・地方市場に送られる。そして市場の卸売業者・仲買人の手を経て、小売店頭に並べられる。
[野村 宏]
流通の合理化
こうした複雑な流通経路を簡素化し、いっそうの流通効率向上と流通経費削減を目的とする流通合理化の努力が長期間重ねられている。現在における流通経路の変化の主要な特徴をあげると、次の三つがある。
第一は、流通のシステム化が流通経路に与えた影響である。流通経路を同じくする生産者、各段階の卸売業者そして小売業者という分業関係を崩し、それを垂直的に統合しようとする動きである。この場合、流通経路のいずれかの段階に属する特定企業が流通経路全体のコンダクターとなり、各段階の諸企業をその構成員とし、一つの垂直的流通システムを構築するという形をとる。それはシステム・コンダクターとしての個別企業の立場から、自己の商品の流通経路を一つのシステムとして把握し、それに必要な費用とその効果の関係を最適にしようとするものである。多くの場合は、生産者である大手企業がコンダクターとなっていたが、流通の規制緩和の結果、大資本による大規模小売型店舗の展開やフランチャイズあるいはボランタリー制をとるコンビニエンス・ストアの定着などによる下からのシステム化の進行がある。これら両者のシステム化は一見矛盾するようにみえるが、実際には、販売価格の安定性や販売量の確保という点で、相当程度の共通点をもっている。とくに流通の規制緩和は、マイカー顧客に依存する郊外型大規模店舗の展開で、この傾向に拍車をかけている。
第二は、各商品の流通経路に随伴する物流経路に関するシステム化の影響である。従来、ばらばらであった商品の受発注・包装・保管・仕分け・配送などの諸物流活動を、コンピュータ、とくにオンラインなどを利用した物流情報システムによって統御し、正確、迅速、かつ効率的な一つの総合的物流システムの構築が進められている。その結果、商品の所有権移動の道筋としての流通経路と、商品の物理的移動としての物流経路が分離され(商物分離)、多段階的な流通経路から切り離された単純、かつ高水準で効率的な物流システムが活動する。
第三は、ダイレクト・マーケティングあるいは無店舗販売といわれる生産者と消費者をより直接的に結び付ける新しい流通経路の出現である。通販業者、大型小売店、宅配業者そして農協・漁協などが、テレビ・コマーシャルやカタログ、インターネットなどを利用して、店舗を経由せず、宅配便を利用し直接消費者へ販売するケースがそれである。そこでは青果物、生鮮魚介類、電化製品、衣料品そして各地の特産品などが取り扱われている。
[野村 宏]
『田島義博・原田英生編著『ゼミナール流通入門』(1997・日本経済新聞社)』▽『加藤義忠・齋藤雅通・佐々木保幸編『現代流通入門』(2007・有斐閣)』