商品を常設の店舗で販売せず,それ以外の方法で商品を販売する小売業の総称。カタログ,ダイレクト・メール,テレビや新聞の広告などを利用して,電話や郵便で顧客からの注文を受ける通信販売,セールスマンが商品あるいはサンプル,パンフレットを携帯して戸別に家庭を訪問し,商品を販売する訪問販売,小型トラックやワゴンタイプの車に商品を積み,広場や街角で販売する移動販売,ホテルや公の施設を利用し,不定期に商品を陳列して販売する展示会販売,在庫一掃や行事などとからめ,広い場所を借りてバーゲンセールを行う催事販売,一般家庭に知人や友人を集めて行われる実演販売や紹介販売,人の集まる所に置かれて定期的に商品の供給と代金の回収が行われる自動販売機による販売など,すべて無店舗販売である。生活協同組合や農業協同組合の組合員がグループでまとめて商品を購入する購買事業活動も,実質的に無店舗販売のうちに入れられよう。
このように無店舗販売には多種多様の販売方法が含まれているが,販売額の小売業全体に占める割合は,1983年でやっと2%程度にすぎないと推定されている(生協,農協の売上げを除く)。日本では生活必需品に関するかぎり,ほとんどの地域で生活行動圏内にあらゆる種類の小売店舗が存在するため,国土の広いアメリカで通信販売が普及したのとは事情が異なる。しかし,近年一般小売店ばかりでなくスーパーマーケットや百貨店などの店舗形式による小売業の売上げが頭打ちとなり,無店舗販売による売上げの伸びが注目されている。この理由として,消費者の生活が豊かになり,より個性的な商品を求めて通信販売を利用するようになったこと,有職主婦など女性の社会進出が顕著となり,生活のサイクルと店舗での買物時間との間にずれが生じ,時間的裁量の余地の大きい無店舗販売が見直されたこと,などがあげられる。また,既存の小売店舗の増改築が,増大するブランドや製品の種類,多様化する消費者のニーズなど,市場の変化に追いついていかないこと,スーパーマーケットや百貨店などの大型小売店の出店規制がより効率的で機動的な小売経営を制約していること,地価の上昇が自由な店舗立地の選択と出店を阻害していることなども,無店舗販売の発達を促進している要因となっている。今後はさらにケーブルテレビやインターネットなどの通信情報システムの急速な発展で,さらに無店舗販売は急速に伸びていくものと思われる。しかし無店舗販売のなかには,消費者の無知につけこんだり,セールスマンによる強引な売込みもあり,それによる被害も後を絶たない。そのため消費者保護の観点から1976年に訪問販売等に関する法律が制定されている。
→小売
執筆者:川嶋 行彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
店舗を構えず、消費者に直接販売する方法の総称。無店舗小売、消費者直販ともいい、直接マーケティングの中心的手法である。在来型のものは、路上販売、通信販売、訪問販売(外交販売)、消費生活協同組合(生協)の共同購入、自動販売機などである。通信販売は、カタログにより注文を受け、郵便や宅配便で現品を配送する。訪問販売は、家庭や職域を販売員が巡回して注文をとり、その場または後日、商品を配送する。このほかに、情報技術(IT)を駆使した情報ネットワークの普及により、CD-ROMのカタログ、電子メールによる販売に、インターネット上で受注、代金引換、クレジットカード等で決済するサイバー・ショッピングcyber shopping等の方法が急速に広まっている。無店舗取引には、便利さとともに当事者の非対面性、カタログ(商品目録)と現品の相違等に起因する紛争が絶えない。こうしたトラブル対策として、特定商取引法(昭和51年法律第57号)があるが、IT時代には十分とはいえない。また訪問販売や生協共同購入は、いずれも既婚女性の在宅率低下により転換期に差しかかっている。
[森本三男]
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…これに対し,近時,店舗を使用しない訪問販売や通信販売・電話勧誘販売が大規模に行われ,広く普及するようになり,さらに連鎖販売,いわゆるマルチ商法も出現して消費者との間でトラブルを生ずるようになった。これらの販売形態を総称して〈無店舗販売〉とか〈特殊販売〉というが,訪問販売・通信販売・電話勧誘販売とマルチ商法とでは,その性格はまったく異なる。訪問販売は,消費者が店舗まで出かける手数を省き,対面方式により懇切な説明を受けるなどの長所がある。…
※「無店舗販売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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