日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋気象」の意味・わかりやすい解説
海洋気象
かいようきしょう
marine meteorology
海上の気象。大陸気象という対比語はないが、海洋気象のおもな特徴は次のようになる。
(1)気温の日較差(にちかくさ)と年較差(ねんかくさ)が小さい。日較差は1日の最高値と最低値の差をいい、年較差は1年のそれである。大気はその下面(陸と海の表面)の状態、とくに海面水温と陸地の起伏の影響を強く受ける。大気は気象現象を生ずるエネルギーのほぼ3分の2を海と陸の表面から得ている。陸地に比べて海水の比熱は4~5倍程度、密度は3分の1から4分の1のことが多いから、熱容量は2倍近くになる。これだけでも海は陸に比べて暖まりにくく、冷えにくくなるが、この特徴は、海水は動くけれども陸地は動かないことでさらに強まる。陸地は、表面の薄い層だけが暖まったり冷えたりしている。海面の水は、冷えて重くなると下に沈む。暖まって軽くなったときでも、波や流れによって上下にかき混ぜられている。つまり、暖まったり冷えたりするのは薄い表層の水だけではなく、ある程度の深さまでの海水全体だから、水温変化は小さくなる。これが、海上の大気に反映して気温の日較差と年較差が小さくなる。
(2)湿度が高く、雲と雨量が多い。海からも陸からも水は蒸発する。その量は1000立方キロメートルを単位として、1年にそれぞれ約450、約72である。海の面積は陸の面積の2.4倍なので、単位面積あたりで海からの蒸発量は陸からの約2.6倍になる。水蒸気は風によって海上から陸上に運ばれたり、逆に陸上から海上に運ばれたりするが、差引き、1年間に海上から陸上へ運ばれる水蒸気量は約30である。したがって陸への降水量は100あまり、海への降水量は410あまりとなる。単位面積当りの降水量は海が陸の1.6倍程度になる。
(3)風が強い。陸と違って海面は平坦で風に対する抵抗が弱いからである。
[高野健三]
『福谷恒男著『海洋気象学のABC』(1997・成山堂書店)』▽『福地章著『海洋気象講座』(1997・成山堂書店)』