改訂新版 世界大百科事典 「清玄桜姫物」の意味・わかりやすい解説
清玄桜姫物 (せいげんさくらひめもの)
歌舞伎狂言,人形浄瑠璃の一系統。清水寺の僧清玄が,桜姫の容色に迷い堕落して殺され,その執念が姫につきまとうという内容の作品群。手桶をさげた清玄が桜姫を見初めて石段から転げ落ちる〈清水寺の場〉や,破れ衣に破れ笠の姿になった清玄が殺される〈庵室の場〉が中心となる。代表的なものに1762年(宝暦12)7月大坂三枡大五郎座(中の芝居)で初演された竹田治蔵・並木翁輔作の《清水清玄六道巡(きよみずせいげんろくどうめぐり)》があり,初世中村歌右衛門の扮した清玄はものすごく,中村家の家の芸となるとともに,恋に執着する清玄像を確立した。古くは土佐浄瑠璃の《一心二河白道(いつしんにがびやくどう)》があり,同じ外題で1698年(元禄11)に初演された近松門左衛門作の歌舞伎では,外題の示すとおり,女色男色の二道に狂う清玄が描かれた。この系統の鶴屋南北作《桜姫東文章》は,江の島の児ヶ淵伝説に基づいて,桜姫を清玄の念友であった稚児白菊の生れ変りとする因果譚の構成をとる。また〈双面(ふたおもて)〉の趣向を取り込んだものに,1757年壕越二三治作の《日本塘鶏音曾我(にほんづつみとりのねそが)》がある。通称《二人浅間》と呼ばれる常磐津《妹背塚松桜(いもせづかまつにさくら)》で,女姿の清玄の亡魂と同じ姿の傾城八ッ橋の亡魂が火鉢の中から出るというもの。この系統で早替りの怪談狂言としたものが1810年(文化7)鶴屋南北作の《閨扇墨染桜(ねやのおうぎすみぞめざくら)》である。ほかに通称《女清玄》の南北作《隅田川花御所染》や,山東京伝の読本《桜姫全伝曙草紙》を劇化した近松徳三作《清水清玄庵曙》など変種もある。人形浄瑠璃は1760年若竹笛躬作《桜姫賤姫桜(さくらひめしずのひめざくら)》などがある。近年の歌舞伎で上演される〈清玄庵室〉は,1835年(天保6)金沢竜玉作の《けいせい入相桜》をもとにして,たいていは義太夫を加えたもの。また,同工異曲のものに人形浄瑠璃《菊池大友姻袖鏡(きくちおおともこんれいそでかがみ)》(近松半二作,1765)から出た〈宗玄庵室〉がある。菊池・大友両家のお家騒動に岩倉の宗玄法師をからませた作で,大友家の息女折琴姫に迷って破滅する宗玄の話は清玄の場合とまったく同じ。この浄瑠璃の詞章が逆に〈清玄庵室〉に採り入れられている。
執筆者:古井戸 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報