暖房器具。灰を入れ炭火をもやして暖をとる容器。木製,金属製,陶製などがある。木製の場合,指物(さしもの),刳物(くりもの)があるが,内側には銅などの落しをつける。落しは,容器の裏に直接張るものと,釣るようにして容器との間にすき間をつくる二重構造のものとがある。指物の火鉢には御殿火鉢,格子形火鉢,箱火鉢などがあり,刳物の火鉢には桐火鉢や欅火鉢などがある。また木製火鉢の一種に長火鉢といって長方形の箱形につくり,上の縁の幅を広くし,下部に抽斗(ひきだし)などをつけ,灰入れの一方に銅壺を備えつけて湯をわかしたり燗(かん)をしたりできるようにしつらえ,簡単な調理や食事ができるように工夫されたものがある。金属製は銅鋳物や真鍮製が多く,獅子脚などをもつ。陶製は円筒形などにつくられるが,金属製と同じく下に木製の台がつくことが多い。また腰掛けたとき使うための背の高い店用火鉢も陶製のものが多い。このほか籐製などもある。火鉢の付属品として火箸,灰ならし,五徳(ごとく)(炭火の上に置いて鉄瓶などをかける脚付きの輪,古くは金輪(かなわ)といった)が使われる。
火鉢は和風住宅の暖房器具を代表するものといえる。古くは火桶(ひおけ),火櫃(ひびつ),炭桶,炭櫃などといわれたが,基本的には火鉢と同じものである。元来,火桶,炭桶は木製曲物(まげもの)または刳物の容器,火櫃,炭櫃は木製指物の容器をいうが,実際には瓦製なども火桶とよんでいた。中世ころまでに多く使われたのは曲物の内側に瓦製の落しをつけたもので,外側の曲物に胡粉を塗ってやまと絵を描いたものなどもある。円形で下に小さな脚のついた瓦製のものもよく使われたが,小型品は手あぶりとも呼んだ。また桐火桶と呼ぶ透しをつけた桐箱の中に瓦製の火入れを入れる行火(あんか)もある。その他正倉院に白石火舎(はくせきかしや)(大理石製),金銅・白銅火舎とよばれる火鉢もある。近代に入りガスを用いた火鉢もできた。
執筆者:小泉 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
暖房具の一種。灰を入れ、中に燠(おき)、炭火(すみび)をついで手足をあぶり、室内を暖め、湯茶などを沸かすのに用いた。古くは火桶(ひおけ)、火櫃(ひびつ)といい、後世はもっぱら火鉢とよんでいる。日本では、古来、室内の採暖・暖房のために広くいろりが行われたが、平安時代の寝殿造など宮廷・邸宅の表向きでは、煙と煤(すす)を避けるため、いろりは設けなかったので、これにかわって、ありあわせの桶、櫃に土製の火容(ひいれ)を置き、これに燠などをついで暖をとった。火桶はヒノキ、スギの曲物(まげもの)に土製の火容を置いたもので、のちにキリ、ケヤキ、スギなどの丸木をくりぬき、銅製の落としを仕込んだものができた。初め木地のまま用いられたが、のち外側に漆(うるし)を塗ったり、絵を描いた絵火桶が用いられ、やがて金、銀、銅などの飾り金具を施したものも現れた。火桶・火櫃の使用期間は旧暦10月から3月までで、4月にはかたづけていた。火桶・火櫃の普及を助長したのは木炭の利用で、元来、木炭は金属精錬用の燃料であったが、これが採暖・暖房用の燃料として利用されるようになって、煙と煤のない住生活が展開されることとなった。ことに近世に入ると、都市の発達は家庭燃料を薪(たきぎ)にだけ求めるのは困難で、いきおい都市生活においては木炭を利用しなければならなくなり、ここに火鉢は広く民間に普及することとなった。火鉢の種類には、キリ・スギ・ヒノキなどの曲物や丸木をくりぬいてつくった丸火鉢、シタン・コクタンなどの堅木(かたぎ)の指物(さしもの)の角火鉢(箱火鉢)や長火鉢、銅・鉄・合金などの金属製や陶器製の丸火鉢、また小形で取っ手をつけて携帯に便利な提(さげ)火鉢などいろいろあって、和室の採暖・暖房具として欠くことのできないものとなった。煙と煤と臭気がないうえに、簡単に移動できるのが長所であるが、全身や部屋全体を暖めることは困難で、炭火による一酸化炭素の害を伴う欠点があった。なお、付属品としては、五徳(ごとく)、銅壺(どうこ)、火箸(ひばし)、灰ならしなどがある。
[宮本瑞夫]
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出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報
…火鉢や風炉を造る工人としては,奈良の西京火鉢造座が著名である。史料上では1333年(元弘3)の《内蔵寮領等目録》に〈大和国内侍原内小南供御人〉が火鉢土器を作料田の年貢として進上しているのと,京都商人役として,奈良火鉢10個を進上しているのをみる。…
※「火鉢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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