生没年不詳。『万葉集』後期の、奈良朝の女流歌人。『万葉集』諸本には「狭野茅上娘子(さののちがみのおとめ)」とある本もあるが、「弟上」とあるほうが正しいらしい。『万葉集』巻15には、越前(えちぜん)国(福井県)に流罪となった中臣宅守(なかとみのやかもり)との間に詠み交わされた63首(すべて短歌)があり、そのうちの23首が娘子の歌として伝わるすべてである。宅守の配流の原因は詳しくはわからないが、娘子が天皇や祭祀(さいし)に仕える蔵部女嬬(くらべのにょじゅ)であったらしいところから、宅守が禁忌を犯して娘子を娶(めと)ったためとも考えられる。天平(てんぴょう)12年(740)ごろのことであったらしい。娘子の歌は、配流の地にある夫を思う内容であるだけに、きわめて熱情的で、絶叫的な表現にさえなっており、集中でも特異な位相にある。
君が行く道のながてを繰(く)りたたね焼きほろぼさむ天の火もがも
[鈴木日出男]
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