日本大百科全書(ニッポニカ) 「理性の詭計」の意味・わかりやすい解説
理性の詭計
りせいのきけい
trick of reason 英語
ruse de la raison フランス語
List der Vernunft ドイツ語
「理性の狡知(こうち)」とも。ヘーゲルの、とくに歴史哲学の概念として有名。『論理学』では「目的が客観との間接的な関係に入り、自己と客観との間に他の客観を挿入すること」、事物を目的連関に置くこと。目的が事物を手段にすることは「暴力」のようにみえるが、実は「詭計とは、他のものを、それが本来あるように存在することを強いる大いなる業(わざ)」(『実在哲学』)である。世界史には、「普遍的理念が、己を危険にさらす対立と抗争に侵されず、傷つくことなく背後に己を持して、さまざまの情熱という特殊的なものを、闘争のうちに送り込んで、消耗させる」理性の詭計が働く。これともっともよく似た思想はアダム・スミスの「見えざる手」である。
[加藤尚武]