F.フェリーニ監督のイタリア映画の大作。1960年製作。奇跡の経済繁栄のもとに〈甘い生活〉を享楽する現代イタリア社会の恥部を暴いたスキャンダラスな映画として,イタリア政府にもバチカンにもショックを与え,一つの社会的事件となった。1人のジャーナリスト(マルチェロ・マストロヤンニ)を狂言回しとして,冒頭のヘリコプターにつるされた巨大なキリスト像のシーンから,僧侶の身なりでカメラマンたちの目を逃れるハリウッドのスター女優(アニタ・エクバーグ),イベントとして演出された〈奇跡〉,貴族の館での乱ちきパーティ等々を経て,夜明けの浜辺に打ち上げられて死臭を放つ巨大な怪魚と,対岸から呼びかける純真無垢(むく)な少女を対照させたラストシーンに至るまで,〈祝祭〉と〈黙示録〉のイメージに満ちあふれた〈寓意的なフレスコ画〉。当初《バビロン紀元2000年》という題名が考えられていた。フェリーニ自身が〈私のローマ〉を描こうとした最初の試みで,その映像化のために〈永遠の都〉ローマの一部を撮影所のセットにつくった。こうしたフェリーニの人工的映像世界は,この後さらにエスカレートして,《サテリコン》(1969),《フェリーニのローマ》(1973)に発展していく。
執筆者:吉村 信次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1960年製作のイタリア・フランス合作映画。フェデリコ・フェリーニ監督の代表作で、カンヌ国際映画祭グランプリに輝いた。作家志望のマルチェロ(マルチェロ・マストロヤンニ)が、ゴシップ・ライターとして華やかな芸能界や社交界を取材しながら、退廃的な暮らしに耽溺(たんでき)していく過程を造形的な魅力たっぷりに描いたため、教会からは強く批判された反面、全編を通して浮き彫りになる魂の救済のテーマは、カソリシズムと切り離して考えることはできない。ハリウッド・スター役のアニタ・エクバーグAnita Ekberg(1931―2015)がトレビの泉で水浴びをする扇情的な場面がとくに有名で、パパラッチとよばれるカメラマンの存在とともに脚光を浴びた。自伝的要素が高いと評されるフェリーニの作品中にあって、同じく作家志望の主人公が故郷を出奔する『青春群像』(1953)の後日談的な要素を備えつつ、マストロヤンニが監督の分身的な人物として初めて登場した。
[西村安弘]
…戦争直後にロッセリーニと出会い,彼のスタッフの一人となって,〈ネオレアリズモ〉の重要な一翼を担うこととなった。 《道》の国際的成功によってイタリア映画の〈新しい天才〉とうたわれたフェリーニは,典型的なイタリア人でその思想は地中海文明と西欧文化の洗礼を受けた〈社会的カトリック主義者〉とみなされていたが,《道》とともに〈孤独の三部作〉といわれる《崖》(1955)と《カビリアの夜》(1957)のあと,その題名がヨーロッパで退廃と享楽生活をあらわすことばとして流行した《甘い生活》(1960)が公開されたときは,商業化した宗教を揶揄(やゆ)されたと解釈した教皇庁が〈反キリスト映画〉であると非難し,性的腐敗と精神的貧困を弾劾されたと解釈した上流階級と協力して,組織的で暴力的な上映反対運動を起こしたという。《カサノバ》(1975),《オーケストラ・リハーサル》(1979)などは〈自己満足〉を指摘されたりもしたが,1984年につくった《船が行く》は,現代を風刺する寓話を題材にして虚構の空想的世界をつくりあげるフェリーニの手法を集大成した作品であり,《道》の詩情,《甘い生活》の精緻(せいち)さ,《フェリーニのアマルコルド》の魅力,《オーケストラ・リハーサル》のシュルレアリスム的なユーモアを兼ねそなえた傑作との声が高い。…
※「甘い生活」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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